広告代理店・Web制作会社のM&A|売却を考える経営者と仲介会社の相談で分かる、評価されるポイントと注意点
広告代理店やWeb制作会社は、社長自身が営業の先頭に立ち、少人数のチームで案件をこなしてきた会社が多い業種です。クライアントとの信頼関係と、現場のクリエイターや運用担当者の力が会社の価値そのものになっているため、経営者が「この会社は、自分がいなくても続けられるのだろうか」と悩み、売却や事業承継を考え始めるケースが増えています。
一方で、広告やWeb制作の会社は、工場や店舗のような目に見える資産が少なく、「何が評価されるのか」「社長が抜けたらクライアントが離れてしまうのでは」と不安に感じる経営者も少なくありません。結論からいえば、評価されるポイントは整理されており、売却の前に準備できることもたくさんあります。
この記事では、広告代理店・Web制作会社の売却を考えている経営者と、M&A仲介会社の担当者との相談の流れに沿って、買手が見るポイントや、売却を進めるうえでの注意点を解説します。
※この記事の相談の場面は、よくある相談をもとにした例です。
相談1:社長がいないと回らない会社でも、売れるのでしょうか?

うちは社員12名のWeb制作・広告運用の会社です。大きなクライアントは、ほとんど私が開拓してきました。私が抜けたら案件が減ってしまいそうで、売れるのか不安です。
社長に依存している会社は、確かに買手から慎重に見られます。ただ、それだけで売れないということはありません。大切なのは、クライアントとの関係が社長1人に集中しているのか、担当者や会社として続いているのかを、買手に分かる形で示すことです。引き継ぎの期間を設けて、社長が少しずつ後任にクライアントを紹介していく計画を立てると、買手の安心につながります。
社長1人の会社ではなく、チームで続けられる会社だと見せることが大事なんですね。
広告代理店やWeb制作会社は、「人」が価値の中心にあるため、買手は特に次の点を確認します。
- クライアントとの関係:窓口が社長だけか、営業担当や運用担当にも関係があるか
- 現場の人材:クリエイター、エンジニア、運用担当者が、売却後も残ってくれるか
- 仕事の進め方:制作や運用の手順が、書類やツールで共有されているか
- 社長の役割:営業・見積もり・品質の確認など、社長が担っている仕事がどこまであるか
属人化を和らげるためにできること
売却を考え始めたら、できる範囲で次のような準備を進めておくと、評価されやすくなります。
- 主要なクライアントについて、社長以外の担当者を置き、定例の打ち合わせにも同席してもらう
- 見積もりの作り方、制作の流れ、納品前の確認の手順を文書にまとめる
- 運用中の広告アカウントやサーバーの管理者を、社内の複数人に分ける
- 重要なクリエイターや運用担当者と、今後の働き方について話しておく
これらは、売却をしない場合でも会社の強みになる取り組みです。時間のかかるものは、早めに着手しておきましょう。
相談2:どんな会社が、買手として考えられますか?

うちのような小さな会社を買ってくれるのは、どんな会社なのでしょうか?
広告・Web制作の分野では、主に次のような会社が買手の候補になります。同じ業界の会社は、クライアントや人材を増やす目的で、事業会社は、広告やWebの制作を社内で担う体制を整える目的で、買収を考えることがあります。
同業だけでなく、いろいろな業種の会社が買手になるんですね!
| 買手の例 | 買収の主な目的 |
|---|---|
| 同業の広告代理店・制作会社 | クライアントや人材の獲得、対応できる地域や業種の拡大 |
| 別の領域の広告・マーケティング会社 | 動画、SNS、システム開発など、サービスの幅を広げる |
| IT企業・システム開発会社 | 制作やマーケティングの機能を取り込み、顧客に一括で提案する |
| 事業会社(メーカー・小売など) | 自社の広告やWebの運営を内製化し、ノウハウと人材を得る |
| 投資ファンド・グループ会社 | 複数の会社を束ねて、規模を大きくする |
どの買手が合うかは、会社の得意な分野によって変わります。たとえば、運用型広告に強い会社は広告やマーケティングの会社に、システム開発もできる制作会社はIT企業に、評価されやすい傾向があります。得意な領域を整理しておくと、仲介会社も買手を探しやすくなります。
相談3:売上が大きく見えるのは、評価に影響しますか?
広告の媒体費を預かっているので、売上が3億円近くあります。でも、利益は思ったほど残っていません。売上が大きく見えるのは、プラスなのでしょうか?
広告代理店では、媒体費を含めた金額を売上として計上している会社と、手数料の部分だけを売上にしている会社があります。売上の数字だけで判断されるわけではなく、買手は「実際に会社に残る利益はいくらか」を重視します。媒体費を除いた粗利や、営業利益が、評価の基本になります。
売上の大きさよりも、残る利益のほうが大事なんですね。
買手が見る主な数字は、次のとおりです。
- 粗利(売上総利益):媒体費や外注費を除いた、会社に残る金額
- 営業利益:粗利から人件費や家賃などを引いた、本業の利益
- 売上の内訳:制作の単発案件と、運用や保守などの継続案件の割合
- 主要クライアントへの依存度:上位1〜3社が全体の何割を占めるか
継続する売上は評価されやすい
広告の運用代行、サイトの保守、SNSアカウントの運用など、毎月続く契約は、売上の見通しが立てやすいため、買手に評価されやすい傾向があります。反対に、単発の制作案件が中心の会社は、毎年の売上が変動しやすいため、慎重に見られることがあります。
売却の準備としては、単発案件から継続の契約へ切り替えられるものがないか、見直しておくとよいでしょう。ただし、売却のために無理に契約形態を変えて、クライアントとの関係を悪くしないよう、注意が必要です。
相談4:制作物の著作権や外注先との契約は、確認が必要ですか?
ホームページやロゴ、動画などを制作してきましたが、著作権のことはあまり意識してきませんでした。売却のときに問題になりますか?
はい、買手が確認する大切な項目です。制作物の著作権が、納品後にクライアントへ移るのか、制作した会社に残るのかは、契約の内容によって変わります。また、外注のデザイナーやライターに作ってもらったものは、外注先との契約で権利の扱いが決まっていないと、後から問題になることがあります。
契約書に何と書いてあるかを、確認しておく必要があるんですね。
確認しておきたい主な項目は、次のとおりです。
| 確認項目 | 見るポイント |
|---|---|
| クライアントとの制作契約 | 著作権の帰属、納品後の修正や再利用の可否が書かれているか |
| 外注先との契約 | 外注したデザインや文章の権利が、会社に移る定めになっているか |
| 素材や写真・フォント | 使用の許諾の範囲を超えていないか、期限が切れていないか |
| 運用中のアカウント | 広告アカウントやサーバー、ドメインの名義がクライアントか自社か |
| 秘密保持 | クライアントの情報や、売上の数字を、買手に開示してよいか |
外注先との取引の確認
制作やライティングをフリーランスに外注している会社は、外注先との取引についても確認が必要です。2024年11月から「フリーランス・事業者間取引適正化等法」が施行され、業務を委託する側には、取引条件の明示や、期日どおりの支払いなどが求められるようになりました[注1]。買手は、こうした法令への対応や、未払いがないかどうかも見ることがあります。
詳しい契約内容や法律の扱いは、案件ごとに異なります。売却を進める前に、弁護士などの専門家に確認しておくと安心です。
相談5:売却の話は、社員やクライアントにいつ伝えるべきですか?
社員が主力の会社なので、売却の話が漏れて、辞めてしまわないか心配です。いつ、誰に伝えればよいのでしょうか?
社員やクライアントへの説明は、基本的に、買手が決まり、最終的な契約の目処が立ってからにします。早く伝えすぎると、不安から退職や取引の見直しにつながるおそれがあるためです。ただし、買手が会社の中を詳しく調べる段階では、一部の幹部や、主要クライアントに話を通す必要が出てくる場合もあります。誰に、いつ、どう伝えるかは、仲介会社と相談して計画を立てましょう。
タイミングを間違えると、人が辞めてしまうこともあるんですね。気をつけます。
広告・Web制作の会社は、人が資産であるため、次のような工夫が役に立ちます。
- 幹部社員への事前の相談:主要なメンバーには、早い段階で意向を聞き、残ってもらえる条件を一緒に考える
- 雇用条件の維持:給与や評価の仕組みが大きく変わらないかを、買手と事前に確認する
- クライアントへの伝え方:担当者の変更や運用体制が変わらないことを、まず伝える
- 情報管理:売却の話を知る人を限り、秘密保持の約束を結ぶ
なお、社員への伝え方については、別の記事で詳しく解説しています。あわせて、売却の計画に組み込んでおくとよいでしょう。
相談6:売却の価格は、どのように決まりますか?
うちの会社は、いくらくらいで売れるのでしょうか? 設備や在庫がほとんどないので、見当がつきません。
設備や在庫が少ない会社は、純資産だけで見ると低くなりがちです。そのため、将来どれくらいの利益を生むかを重視する「収益力」の考え方で評価することが一般的です。たとえば、営業利益や、減価償却などを足し戻した利益に、一定の倍率をかけて目安を出す方法があります。ただし、倍率は、継続契約の割合やクライアントの分散、人材の定着の見込みなどによって変わります。
設備が少なくても、利益とクライアントとの関係が価値になるんですね。
価格に影響する主な要素を、次のように整理できます。
| 価格が高くなりやすい例 | 価格が低くなりやすい例 |
|---|---|
| 継続契約の売上が大きい | 単発の案件ばかりで、売上が安定しない |
| クライアントが分散している | 上位1社に売上の多くを頼っている |
| 社長以外にもクライアントとの関係がある | 窓口や営業が社長1人に集中している |
| 主要メンバーが残る見込みが高い | キーマンが退職する可能性が高い |
| 制作や運用の手順が文書化されている | 個人の経験に頼っていて、共有されていない |
支払い方法も確認する
人に依存する業種の売却では、売却代金の一部を、売却後の売上や利益の達成度に応じて後から支払う方法(アーンアウト)が使われることがあります。受け取る金額が、売却後のクライアントの継続に左右されるため、条件をよく確認しましょう。
よくある質問
Q1. 社長が売却後にすぐ辞めることはできますか?
売却後、一定の期間は社長が残って引き継ぎを行う条件がつくことが一般的です。期間は、会社の規模やクライアントの状況によって変わります。どのくらいの期間、どのような役割で残るのかは、契約の前に買手とよく話し合いましょう。
Q2. 小さな会社でも、仲介会社は引き受けてくれますか?
仲介会社によって、得意な規模や、手数料の最低額が異なります。売上や利益が小さい会社でも、引き受けてくれる仲介会社はあります。複数の仲介会社に相談し、自社に合うところを選びましょう。
Q3. 売却を考え始めたら、まず何をすればよいですか?
まず、会社の数字(売上の内訳、粗利、営業利益)と、主要なクライアントの状況を整理することから始めましょう。同時に、社長の仕事のうち、誰かに任せられるものを増やしておくと、売却の準備と会社の強化の両方につながります。
Q4. 個人のフリーランスや外注先との関係は、売却に影響しますか?
外注先に多くの業務を任せている会社は、売却後もその外注先が協力してくれるかが、買手にとっての関心事になります。外注先との取引条件や、関係の長さを整理しておくと、評価につながります。
Q5. 広告の運用アカウントは、売却後も引き継げますか?
広告アカウントの名義や権限は、クライアントとの契約や、媒体のルールによって異なります。名義がクライアントにある場合は、売却後もそのまま使えることが多いですが、自社名義の場合は、引き継ぎの手続きが必要になることがあります。詳しい条件は、各媒体の規約や、専門家に確認しましょう。
売却までの流れと準備のポイント
広告代理店・Web制作会社の売却は、一般的に次のような流れで進みます。
- 仲介会社への相談・契約
- 会社の数字とクライアントの状況の整理
- 買手の候補への打診(社名を伏せた資料を使用)
- 秘密保持契約を結び、会社の詳しい資料を開示
- 社長と買手の面談
- 基本合意の締結
- 買手による調査(デューデリジェンス)
- 最終契約・クロージング
- 売却後の引き継ぎ
どの段階でも、社員とクライアントへの配慮が大切です。情報が早く漏れないよう、仲介会社と進め方を確認しておきましょう。
まとめ
広告代理店・Web制作会社のM&Aでは、「人」に依存する体質をどう和らげるか、継続する売上がどれくらいあるか、制作物の権利や外注先との契約が整理されているか、といった点が、評価を左右します。
売却を考え始めた段階から、クライアントとの関係を社長以外にも広げ、業務の手順を文書にまとめ、契約の内容を確認しておくことで、買手に安心してもらいやすくなります。準備には時間がかかるものが多いため、早めに着手しましょう。
売却を進める際は、広告・Web業界の売却の実績がある仲介会社を、複数比べて選ぶことが大切です。手数料や、買手の探し方、担当者との相性を確認してから、契約する仲介会社を決めましょう。
「M&A一括見積の窓口」では、会社の売却や事業承継を検討している経営者様向けに、M&A仲介会社の一括見積もりサービスを提供しています。
「広告・Web制作の会社の売却に強い仲介会社を、比べて選びたい」とお考えの方は、ぜひM&A一括見積の窓口にご相談ください。
[注1] 公正取引委員会・厚生労働省:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)