運送業のM&Aとは?運送事業の許可の引き継ぎ方や、買手が評価するポイントを解説

運送業のM&Aとは?運送事業の許可の引き継ぎ方や、買手が評価するポイントを解説

運送業は、私たちの暮らしや企業の活動を支える大切な産業です。一方で、ドライバー不足や燃料費の高騰、働き方の見直しなど、運送会社を取り巻く環境は年々厳しくなっています。

こうした中で、経営者の高齢化や後継者不足をきっかけに、運送会社を第三者に引き継ぐ方法として、M&Aを選ぶ会社が増えています。

運送業のM&Aでは、運送事業の許可を正しく引き継げるかどうかや、ドライバーの労務管理の状況など、ほかの業種にはない確認ポイントがあります。

ここでは、運送業でM&Aが増えている背景と、許可の引き継ぎ方、買手が評価するポイント、売却で注意したいことについて解説します。

運送業でM&Aが増えている背景

街を走る運送会社のトラック
 

運送業では、なぜM&Aが増えているのですか?

 
 

経営者の高齢化と後継者不足に加えて、ドライバー不足や働き方の規制への対応が大きな理由です。単独で事業を続けることが難しくなり、大きな会社のグループに入る道を選ぶ会社が増えています。

 
 

人手と規制の両方が、大きな課題になっているんですね!

 

運送業でM&Aが増えている主な背景には、次のようなものがあります。

  • 後継者不足:親族や社員に、会社を継ぐ人が見つからない
  • ドライバー不足:ドライバーの採用が難しく、高齢化も進んでいる
  • 働き方の規制:2024年4月から、ドライバーの時間外労働に上限が設けられた[注1]
  • コストの上昇:燃料費や車両の価格が上がり、利益を出しにくくなっている
  • 規模の拡大:買手が車両やドライバー、営業所、荷主との取引をまとめて手に入れたい

買手にとっては、M&Aによってドライバーや車両、荷主との取引をまとめて引き継げることが、大きな魅力になっています。

運送事業の許可とM&Aの関係

物流を支える運送の現場
 

M&Aをすると、運送事業の許可はどうなるのですか?

 
 

株式譲渡の場合は、許可を持っている会社そのものが残るため、許可は原則としてそのまま続きます。事業譲渡の場合は、国の認可を受けることで、許可を引き継ぐことができます。

 
 

M&Aの方法によって、手続きが変わるんですね!

 

トラックで荷物を運び、運賃を受け取る事業を行うには、一般貨物自動車運送事業の許可が必要です。

M&Aの方法許可の扱い
株式譲渡会社が許可を持ち続けるため、原則としてそのまま続く(役員の変更などの届出は必要)
事業譲渡国土交通大臣(地方運輸局)の認可を受けなければ、譲渡の効力が生じない
合併・会社分割事業譲渡と同じく、認可を受ける必要がある

事業譲渡の場合は認可が必要

事業譲渡で運送事業を引き継ぐ場合は、国の認可を受ける必要があり、認可を受けないまま事業を譲り渡しても効力は生じません。[注2]

認可を受けるには、引き継ぐ側が許可の要件を満たしていることを示す必要があり、審査にも時間がかかります。スケジュールに余裕を持って準備しましょう。

許可の要件を満たし続けられるか

 

株式譲渡なら、許可のことは心配しなくていいのですか?

 
 

許可は残りますが、運行管理者や整備管理者の選任、営業所や車庫の要件などを満たし続ける必要があります。経営者や担当者が退職すると、要件を満たせなくなることがあるため注意が必要です。

 
 

会社が残っても、人や設備の要件は続くんですね!

 

運送事業を続けるためには、主に次のような要件を満たし続ける必要があります。

  • 運行管理者:営業所ごとに、資格を持つ運行管理者を選任すること
  • 整備管理者:車両の点検や整備を管理する整備管理者を選任すること
  • 営業所・車庫:営業所や車庫が、決められた基準を満たしていること
  • 車両の台数:営業所ごとに、一定の台数以上の車両を持っていること

中小の運送会社では、経営者自身が運行管理者を兼ねていることもあります。売却後に経営者がすぐに退任すると、運行管理者がいなくなってしまうおそれがあるため、事前に後任を決めておくことが大切です。

買手が評価するポイント

 

運送会社のM&Aでは、買手はどこを評価するのですか?

 
 

ドライバーの人数と年齢構成、車両の台数と状態、荷主との取引の安定性、営業所の立地、事故や行政処分の履歴などが主なポイントです。

 
 

人と車と荷主が、会社の価値を支えているんですね!

 
評価のポイント内容
ドライバー人数、年齢構成、免許の種類、定着率
車両台数、車種、年式、所有かリースか
荷主取引先の数、取引の年数、売上の偏り
営業所・車庫立地、所有か賃貸か、拠点の数
安全事故の履歴、行政処分の履歴、安全への取り組み
労務管理労働時間の管理、残業代の支払い状況
財務利益の安定性、借入金、リース債務

荷主との関係

売上の大部分を特定の荷主に頼っている場合、その荷主との取引が売却後も続くかどうかが、会社の価値を大きく左右します。荷主との契約の内容や、取引が続く見込みを説明できるようにしておきましょう。

労務管理の確認が特に大切

 

運送業ならではの、注意したいポイントはありますか?

 
 

ドライバーの労働時間の管理と、残業代の支払いの状況は、デューデリジェンス(買収監査)で特に詳しく確認されます。問題が見つかると、価格が下がったり、交渉がまとまらなかったりすることがあります。

 
 

働き方の管理が、会社の価値に直結するんですね!

 

労働時間の管理

2024年4月から、ドライバーの時間外労働は、原則として年960時間が上限になりました。あわせて、ドライバーの拘束時間や休息期間についての基準も見直されています。[注1]

これらの基準を守った運行ができているかは、買手が必ず確認するポイントです。運行の記録や勤務の記録を整理し、基準を守れていることを示せるようにしておきましょう。

未払いの残業代

運送業では、長時間の運行や待ち時間の扱いなどから、残業代の未払いが問題になることがあります。未払いの残業代は、売却後に請求される可能性がある「見えない負債」として、価格に影響することがあります。売却を考え始めたら、専門家に確認してもらいましょう。

運送業の主な買手

 

運送会社を買うのは、どのような会社なのですか?

 
 

同じ地域や同じ分野で事業を広げたい運送会社のほか、荷主となるメーカーや、倉庫などの物流の会社が買手になることもあります。

 
 

荷主の側が、運送会社を買うこともあるんですね!

 
買手の種類主な目的
同業の運送会社ドライバーや車両、拠点を増やし、受注を広げたい
物流の会社倉庫での保管と運送を、一つのグループで担いたい
荷主のメーカーなど自社の荷物を運ぶ手段を確保し、配送を安定させたい
異業種の会社物流の分野に新しく進出したい

ドライバー不足が続く中で、運送会社を求める買手は多くいます。自社の強みを活かしてくれる相手を選ぶことが大切です。

売却を成功させるためのポイント

安全への取り組みを示す

事故を防ぐための取り組みや、ドライバーへの教育、車両の点検の体制などは、運送会社の信頼を支える大切な要素です。安全への取り組みを資料にまとめ、買手に説明できるようにしておきましょう。

ドライバーへの伝え方を考えておく

売却の話が早い段階で広まると、不安を感じたドライバーが辞めてしまうおそれがあります。伝える時期と内容を買手と相談し、売却後も雇用や待遇が守られることを丁寧に説明しましょう。

運送業のM&Aを進める流れ

運送業のM&Aは、一般的に次のような流れで進みます。

  1. 仲介会社などに相談し、会社の価値や売却の見込みを確認する
  2. 許可の状況や車両、ドライバー、荷主との取引を整理する
  3. 買手候補を探し、営業所の見学やトップ面談を行う
  4. 条件を交渉し、基本合意を結ぶ
  5. デューデリジェンスで、財務・労務・安全などの状況を確認してもらう
  6. 最終契約を結ぶ(事業譲渡などの場合は、認可の申請を行う)
  7. クロージングと引き継ぎを行い、必要な届出を行う

売却前に準備しておきたい書類

書類の種類主な内容
財務の書類直近3期分の決算書、税務申告書、借入金とリースの一覧
許可の書類許可証、事業計画の変更の届出、運行管理者・整備管理者の選任届
車両の書類車両の一覧、車検証、リース契約書、整備の記録
荷主の書類主な荷主との契約書、荷主別の売上
安全の書類事故の記録、行政処分の履歴、安全への取り組みの資料
人の書類ドライバーの一覧、免許の種類、勤務の記録、賃金台帳

運送業のM&Aでよくある質問

 

運送業のM&Aについて、ほかにも気になることがあります。

 
 

「車両が数台の会社でも売れるのか」「行政処分を受けたことがあっても売れるのか」といったご質問をよくいただきます。

 
 

どちらも、まさに気になっていたことです!

 

車両が数台の会社でも売れますか?

はい。規模が小さくても、運送事業の許可やドライバー、安定した荷主との取引があれば、事業を広げたい会社にとって魅力的な買収先になることがあります。許可を一から取るには時間がかかるため、許可を持っていること自体が評価されることもあります。

行政処分を受けたことがあっても売れますか?

行政処分の内容や時期によって影響は異なります。処分の内容と、その後の改善の取り組みを正直に説明することが大切です。処分の履歴を隠して売却すると、あとで大きなトラブルになるおそれがあります。

運送業のM&Aは、許可と労務の整理がカギ

運送業のM&Aでは、運送事業の許可を正しく引き継げるかどうかが大きなポイントです。株式譲渡の場合は許可がそのまま続きますが、運行管理者などの要件を満たし続ける必要があります。事業譲渡の場合は、国の認可を受けるためのスケジュール管理が欠かせません。

ドライバーの労働時間や残業代の状況も含めて早めに整理しておくことが、売却を成功させるポイントです。

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[注1] 厚生労働省:自動車運転者の労働時間等の改善のための基準

[注2] 国土交通省:貨物自動車運送事業法