個人事業主でも事業は売れる?事業譲渡の方法と流れ、税金や手続きの注意点を解説

個人事業主でも事業は売れる?事業譲渡の方法と流れ、税金や手続きの注意点を解説

「会社にはしていないけれど、長年続けてきたこの仕事を、誰かに引き継げないだろうか」

M&Aというと会社の売却をイメージしがちですが、個人事業主として営んでいる事業も、第三者に売却することができます。

飲食店や美容室、小売店、工房、ウェブサイトの運営など、個人で営む事業でも、技術やノウハウ、取引先、常連客などに価値を感じる買手はいます。

一方で、個人事業の売却は、会社の売却とは仕組みが異なるため、引き継げるものや手続き、税金の扱いを正しく理解しておくことが大切です。

ここでは、個人事業主が事業を売却する方法と、会社の売却との違い、売却の流れ、税金や手続きの注意点、売却を成功させるポイントについて解説します。

個人事業主でも事業は売れる?

長年使ってきた道具を手にする職人
 

会社ではなく個人事業でも、本当に売ることができるのですか?

 
 

はい。個人事業の場合は、事業に使っている設備や取引先との関係、ノウハウなどをまとめて買手に引き継ぐ「事業譲渡」という方法で売却することができます。

 
 

個人で始めた仕事でも、引き継いでもらえるんですね!

 

個人事業主の事業は、会社のように株式がないため、株式譲渡で売ることはできません。そのため、事業に関わる資産や契約、ノウハウなどを個別に引き継ぐ「事業譲渡」の形で売却するのが一般的です。

会社の売却との違い

比較項目個人事業の売却会社の売却(株式譲渡)
売却の方法事業譲渡株式譲渡が中心
売るもの事業用の資産・契約・ノウハウなど会社の株式
引き継ぎ方資産や契約を一つずつ移す会社がそのまま引き継がれる
許認可買手が取り直すことが多い原則そのまま
取引先・従業員個別に契約を結び直す原則そのまま
売却代金を受け取る人事業主本人株主(経営者など)

引き継げるもの・引き継げないもの

事業を支えてきた仕事道具
 

個人事業を売るとき、何を引き継いでもらえるのですか?

 
 

設備や在庫、店舗の造作、取引先や顧客との関係、屋号、ウェブサイト、ノウハウなどを引き継いでもらえます。一方で、個人の名前で受けている許認可や、個人の借入金などは、そのままでは引き継げないことが多くあります。

 
 

引き継げるものと、手続きが必要なものがあるんですね!

 

引き継ぎやすいもの

  • 設備、機械、道具、在庫
  • 店舗の内装や造作
  • 屋号やブランド、ウェブサイト、SNSアカウント
  • 顧客の情報(本人の同意など、個人情報の扱いに注意)
  • 技術やノウハウ、レシピ、マニュアル

手続きや同意が必要なもの

  • 取引先との契約:取引先の同意を得て、新しい事業者と契約を結び直す
  • 店舗や事務所の賃貸借契約:大家さんの承諾が必要なことが多い
  • 従業員:一度退職し、買手のもとで新たに雇用してもらうのが一般的
  • 許認可:買手が新たに取得する必要があることが多い
  • 借入金:事業主個人の借入金は、そのまま買手に移すことは難しく、売却代金で返済するなどの対応が必要

個人事業の売却の流れ

 

個人事業の売却は、どのような流れで進めるのですか?

 
 

事業の価値を整理し、買手を探して条件を交渉し、事業譲渡契約を結んで引き継ぎを行います。引き継ぎのあとは、廃業の届出などの手続きも必要です。

 
 

売ったあとの手続きまで、見ておく必要があるんですね!

 
  1. 事業の価値を整理する:売上や利益、設備、顧客、ノウハウなど、事業の強みを整理する
  2. 相談先を決める:仲介会社やマッチングサイト、事業承継の公的な相談窓口などを利用する
  3. 買手を探す:事業の概要をまとめ、買手候補を探す
  4. 条件を交渉する:価格、引き継ぐ範囲、引き継ぎの期間などを決める
  5. 事業譲渡契約を結ぶ:引き継ぐ資産や契約の一覧を定め、契約を結ぶ
  6. 引き継ぎを行う:取引先や顧客へのあいさつ、ノウハウの伝達、許認可の手続きなどを進める
  7. 廃業の手続きを行う:税務署に個人事業の廃業届を出すなど、必要な届出を行う

個人事業を買うのはどんな人?

 

個人の小さな事業を、どんな人が買ってくれるのですか?

 
 

同じ業種で事業を広げたい会社や個人事業主、独立して自分の事業を持ちたい個人、新しい分野に進出したい会社などが主な買手です。

 
 

会社だけでなく、個人が買ってくれることもあるんですね!

 
買手の種類主な目的
同業の会社・個人事業主顧客や取引先、職人を増やして事業を広げたい
独立を考えている個人一から始めるより、すでに顧客のいる事業を引き継ぎたい
異業種の会社新しい分野に進出したい、既存の事業と組み合わせたい

最近は、会社員が独立の手段として小さな事業を買う「個人のM&A」も増えています。一から店を開くより、顧客や設備がそろった事業を引き継ぐほうが早く軌道に乗せられるためです。

個人事業の売却にかかる税金

 

個人事業を売ったら、税金はどうなるのですか?

 
 

事業を売って得た利益には、所得税と住民税がかかります。売った資産の種類によって、所得の区分や計算方法が変わるため、事前に税理士に試算してもらうことが大切です。

 
 

売ったものによって、税金の計算が変わるんですね!

 

個人事業の売却では、売却代金を、譲渡した資産ごとに分けて考える必要があります。資産の種類によって、税金の扱いが異なるからです。

譲渡した資産主な所得の区分
設備・機械・営業権(のれん)など譲渡所得
在庫(棚卸資産)事業所得
土地・建物譲渡所得(分離課税)

設備や営業権などの譲渡所得は、ほかの所得と合わせて税金を計算する「総合課税」になり、所得が多いほど税率が高くなります。一方、土地や建物の譲渡所得は、ほかの所得とは分けて計算されます。[注1]

また、事業を売却した年は、売却代金によって所得が大きく増えることがあるため、翌年の住民税や国民健康保険料にも影響します。手元に残る金額を正しく知るためにも、税理士に試算してもらいましょう。

消費税にも注意

消費税の課税事業者の場合、設備や営業権などの譲渡には、消費税がかかることがあります。売却価格を決めるときに、消費税の扱いを買手と確認しておきましょう。

売却を成功させるポイント

 

個人事業の売却を成功させるには、何が大切ですか?

 
 

事業主がいなくても事業が続く仕組みをつくること、数字を整理しておくこと、引き継ぎに協力することが大切です。

 
 

自分がいなくなっても続けられるかどうかが、価値を決めるんですね!

 

事業主がいなくても続く仕組みをつくる

個人事業は、事業主本人の技術や人柄に支えられていることが多く、事業主がいなくなると顧客が離れてしまうことを買手は心配します。作業の手順をマニュアルにする、取引先との関係を引き継げるようにするなど、事業主がいなくても続く仕組みを整えておきましょう。

数字を整理しておく

確定申告の書類や帳簿をもとに、売上や経費、利益を分かりやすく整理しておきましょう。事業の経費と個人の生活費が混ざっている場合は、事業の本当の利益が分かるように区別しておくことが大切です。

引き継ぎに協力する

売却後も一定期間、買手と一緒に仕事をしたり、取引先や顧客に紹介したりすることで、事業の価値を守ることができます。引き継ぎの期間や方法は、契約の段階で決めておきましょう。

早めに動き始める

体調を崩してから、あるいは事業の売上が落ちてから売却を考えると、買手が見つかりにくくなったり、価格が下がったりすることがあります。事業が順調なうちに相談を始めることで、時間をかけて納得のいく相手を探すことができます。

売却前に準備しておきたい書類

個人事業の売却では、買手が事業の中身を判断できるよう、次のような書類をそろえておきましょう。

書類の種類主な内容
数字の書類直近3年分の確定申告書、青色申告決算書や収支内訳書、帳簿
資産の書類設備や道具の一覧、在庫の一覧、リース契約書
契約の書類店舗や事務所の賃貸借契約書、主な取引先との契約書
許認可の書類営業に必要な許可証や届出の控え
人の書類従業員の一覧、雇用の条件
ノウハウの資料作業の手順書、顧客の対応の記録、仕入れの方法

特に、ノウハウを形にした資料は、買手にとって大きな安心材料になります。普段の仕事の流れを書き出しておくだけでも、事業の価値を伝えやすくなります。

個人事業の売却でよくある質問

 

個人事業の売却について、ほかにも気になることがあります。

 
 

「どのくらいの金額で売れるのか」「売る前に会社にしたほうがいいのか」といったご質問をよくいただきます。

 
 

どちらも、ぜひ知っておきたいです!

 

どのくらいの金額で売れますか?

事業の内容や利益によって大きく異なります。設備などの資産の価値に、事業が生み出す利益の数年分を加えて考えることが多いですが、個人事業の場合は、事業主に頼っている部分が大きいほど評価が下がりやすくなります。まずは専門家に相談して、目安を確認してみましょう。

売る前に、会社にしたほうがいいですか?

会社にすれば株式譲渡で売れるようになりますが、法人化の手続きや費用、税金の負担が増えることもあります。売却の規模や時期によって向き不向きがあるため、税理士や仲介会社に相談して判断しましょう。

売ったあと、同じ仕事を続けてもいいですか?

事業譲渡の契約では、売手が一定の期間、同じ地域で同じ事業を行わない「競業避止義務」を定めることが一般的です。売却後に同じ仕事を続けたい場合は、範囲や期間について、契約の前に買手と話し合っておきましょう。

引き継ぎには、どのくらいの期間がかかりますか?

事業の内容によって異なりますが、数か月から1年ほど、売手が買手と一緒に仕事をしながら引き継ぐことが多くあります。技術や顧客との関係が事業主に集中しているほど、引き継ぎの期間は長くなる傾向があります。

個人事業も、あきらめずに引き継ぎ先を探そう

個人事業主でも、事業譲渡によって、設備や取引先、ノウハウなどをまとめて第三者に引き継ぐことができます。会社の売却とは異なり、取引先や従業員、許認可などは個別に手続きが必要になるため、早めに準備を進めることが大切です。

税金の扱いも売った資産によって変わるため、売却前に税理士に試算してもらい、手元に残る金額を確認しておきましょう。

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[注1] 国税庁:譲渡所得の計算のしかた