引退までの3年カレンダー|会社売却を3年前から準備するスケジュール

引退までの3年カレンダー|会社売却を3年前から準備するスケジュール

「あと3年で引退したい。会社は誰かに引き継いでもらいたい」

そう考えたとき、多くの経営者が悩むのが、「いつから、何を準備すればいいのか」という点です。会社の売却は、思い立ってすぐに終わるものではありません。準備に時間をかけた会社ほど、条件のよい相手に出会いやすく、納得のいく形で引き継げる傾向があります。

一方で、準備を後回しにして、体調を崩してから、あるいは資金繰りが苦しくなってから動き出すと、選べる道が少なくなってしまいます。

この記事では、引退したい時期から逆算して、3年前、2年前、1年前、半年前、そして成約までの5つの時期に分け、それぞれの時期にやっておきたいことを、時系列のスケジュールとして整理しました。あくまで目安ですが、自分の会社の準備状況と見比べながら、読み進めてみてください。

3年間のスケジュールの全体像

売却までのスケジュールを説明する場面

まずは、5つの時期の全体像を確認しましょう。

時期主なテーマ代表的なやること
引退の3年前方向性を決める売却の目的の整理、後継者候補の確認、会社の現状把握
引退の2年前会社を整える株主の整理、個人保証の確認、決算書の見直し
引退の1年前相談を始める相談先の比較、価格の目安の確認、仲介会社との契約
引退の半年前買手と話を進める買手の候補との面談、基本合意、買手による調査
成約まで引き継ぐ最終契約、クロージング、引き継ぎ

なお、中小企業のM&Aは、相談を始めてから成約するまでに、半年から1年ほどかかるのが一般的です。ただし、会社の状況や買手の見つかり方によって、もっと長くなることも、短くなることもあります。

引退の3年前:方向性を決める

準備の段取りを考える経営者
 

3年も前から、何をすればよいのでしょうか?まだ売ると決めたわけでもないのですが。

 
 

売ると決める前だからこそ、できることがあります。「会社を続けるのか、誰かに任せるのか、売るのか」の選択肢を整理し、会社の現状を知っておくのが、この時期の役割です。

 
 

決める前の準備が大切なんですね!

 

3年前は、まだ時間にゆとりがあります。ここで大切なのは、結論を急がずに、会社の今の姿と、自分の希望をはっきりさせることです。

売却の目的と条件を書き出す

「なぜ会社を手放したいのか」「引退後はどのように暮らしたいのか」を、紙に書き出してみましょう。そのうえで、売却にあたって大切にしたい条件に、優先順位をつけます。

  • 従業員の雇用を守ってほしい
  • 会社の名前や、築いてきたお店の看板を残したい
  • できるだけ高い価格で売りたい
  • 引退の時期を、予定より遅らせたくない

すべての条件を満たす買手は、なかなか見つかりません。何を一番優先するかを決めておくと、あとの判断がぶれにくくなります。

親族や社内に後継者候補がいるか確認する

売却を考える前に、息子さんや娘さん、親族、そして役員や従業員の中に、後継者になれる人がいないかを、改めて考えてみましょう。「子どもは継がないと言っていた」という話でも、数年のうちに考えが変わることはあります。本人の意思を、きちんと聞いておくことが大切です。

後継者候補がいる場合でも、株式の引き継ぎ方や、経営者の個人保証の扱いなど、整理すべき課題は残ります。早めに専門家に相談しておくと、選択肢が広がります。

会社の現状を、数字で確かめる

過去3期分ほどの決算書をもとに、売上、利益、借入金の状況を確認します。会社の強みや課題も、書き出してみましょう。この時点で、「このままでは売りにくい」と感じる点が見つかれば、それを直すための時間を、たっぷり取れます。

引退の2年前:会社を整える

 

2年前は、具体的にどのような準備をするのですか?

 
 

買手から見たときの「気になる点」を減らしていく時期です。株式の持ち主の整理や、会社と経営者個人のお金の区別など、時間のかかるものから手をつけましょう。

 
 

買手の目線で会社を見直すんですね!

 

2年前は、会社を「売りやすい状態」に整えていく時期です。時間のかかる作業が多いので、ここでの準備が、のちの交渉に大きく影響します。

株主を確認して整理する

株主名簿を確認し、株式がだれの手にあるのかを、はっきりさせましょう。創業のころに、名義だけを借りた人がいたり、亡くなった方の名義のまま株式が残っていたりすることもあります。株主が分散していると、株式を売るときに、全員の同意を得る手間がかかります。

特に、相続が発生していて名義が変わっていない場合は、手続きに時間がかかることがあります。2年前に確認しておけば、慌てずに対応できます。

個人保証と借入金を一覧にする

会社の借入金について、経営者が個人保証をしているものがないかを確認します。M&Aでは、買手が借入金を引き継ぐときに、個人保証の解除を求められるのが一般的です。ただし、金融機関が解除に応じるかどうかは、会社の状況や買手の信用力によって変わります。

あらかじめ、どの借入に、どのような保証がついているのかを、一覧にしておきましょう。金融機関との話し合いが必要になる場合は、早めに相談しておくと安心です。

会社と個人のお金を分ける

会社のお金が、経営者個人の支出に使われている場合は、少しずつ整理していきましょう。たとえば、私的な支出を経費にしていたり、会社から個人への貸付金が残っていたりすることがあります。買手は、会社の本来の利益を見たいので、こうした部分を放置すると、評価が下がるおそれがあります。

決算書の内容を見直す

決算書の内容に、不自然な点がないかを、税理士と一緒に確認します。回収できない売掛金や、使っていない在庫、古くなって価値のない設備などが、帳簿に残ったままになっていることもあります。こうした点は、買手による調査で必ず指摘されます。早めに整理しておけば、説明がスムーズになります。

引退の1年前:相談を始める

 

1年前になったら、すぐに仲介会社に連絡したほうがいいですか?

 
 

連絡するのは構いませんが、最初の1社に決めてしまわないことが大切です。複数の会社に話を聞いて、費用や得意分野を比べてから選びましょう。

 
 

じっくり比べるのが大事なんですね!

 

1年前は、いよいよ外部に相談を始める時期です。ここまでに整えた準備をもとに、相談先を決めていきます。

相談先を複数比べる

M&Aの相談先には、仲介会社、金融機関、税理士、公的な相談窓口など、さまざまな選択肢があります。会社によって、得意な業種や規模、手数料の仕組み、買手のネットワークは大きく異なります。

比べるときは、次のような点を確認しましょう。

  • 自分の業種や規模での実績があるか
  • 手数料の体系と、成功報酬の計算方法が分かりやすいか
  • 担当者の説明が丁寧で、質問に誠実に答えてくれるか
  • 専任契約を求められるか、その期間はどれくらいか

会社の価格の目安を知る

相談を始めたら、自社が、どれくらいの金額で売れそうなのかの目安を聞いてみましょう。複数の会社から話を聞くと、見積もりの考え方の違いも分かります。価格はあくまで目安であり、実際の買手との交渉で変わることを、理解しておいてください。

仲介会社と契約を結ぶ

依頼する会社を決めたら、仲介の契約を結びます。多くの仲介会社は、専任契約を求めます。契約の期間、解約の条件、手数料が発生するタイミングを、契約の前に必ず確認しましょう。契約書の内容に不安があれば、税理士や弁護士にも見てもらうと安心です。

引退の半年前:買手と話を進める

 

買手が見つかったら、すぐに売れるのでしょうか?

 
 

いえ、そこからが本番です。面談、基本合意、買手による調査と、いくつもの段階を踏みます。途中で話が止まることもあるので、余裕をもって進めましょう。

 
 

すぐには終わらないんですね。早めに動いて正解です!

 

半年前になると、具体的な買手候補との話が始まります。ここからは、仲介会社が主導して進めますが、経営者本人にしかできないことも多くあります。

買手候補との面談に臨む

買手候補が決まると、経営者同士の面談(トップ面談)が行われます。会社の歴史、従業員への思い、今後の事業の見通しなどを、自分の言葉で伝えます。条件だけでなく、相手の経営者が信頼できる人かどうかを確かめる、大切な機会です。

基本合意と、買手による調査

条件がおおむね固まると、基本合意書を結びます。そのあと、買手が会社の財務や法務、事業の内容を調べる、デューデリジェンスが行われます。この調査では、決算書や契約書、従業員の情報など、多くの資料を求められます。2年前、3年前から整えてきた準備が、ここで役立ちます。

調査の結果によっては、価格や条件が見直されることもあります。ここで慌てないよう、あらかじめ「この点は譲れない」という線を決めておきましょう。

成約まで:最終契約と引き継ぎ

 

契約を結んだら、すぐに引退できるのですか?

 
 

多くの場合、契約後も、数か月から1年ほどは引き継ぎの期間があります。取引先へのあいさつや業務の引き継ぎがあるので、引退の時期にもその分のゆとりを持たせておきましょう。

 
 

引き継ぎの期間も見ておかないといけませんね!

 

調査が終わり、条件がまとまれば、最終契約書を結びます。そのあと、株式の引き渡しと代金の支払いを行うクロージングを迎えます。

最終契約書の内容を確認する

最終契約書には、価格、支払いの方法、表明保証、競業避止義務など、売手が守るべき約束が書かれています。内容をよく読み、分からない点は、専門家に確認してから署名しましょう。

従業員や取引先への伝え方を決める

M&Aの内容は、条件がまとまった段階で、従業員や取引先に伝えるのが一般的です。早すぎると不安が広がり、遅すぎると不信感につながります。伝える順番や時期は、買手と相談して決めましょう。

引き継ぎ期間を過ごす

クロージングのあとも、一定の期間、経営者が会社に残って、引き継ぎを行うことがよくあります。取引先との関係づくりや、業務のノウハウを伝える大切な時間です。この期間に、新しい経営者や従業員との信頼関係を築けると、会社全体が安定します。

スケジュールを組むときのポイント

3年のカレンダーは、あくまで目安です。会社の状況によっては、もっと長い準備が必要な場合もあれば、短い期間で進められる場合もあります。

特に気をつけたいのは、次の3点です。

  • 体調や資金繰りの問題は、予定を前倒しにするきっかけになる
  • 株主の整理や個人保証の確認など、時間のかかる作業は、早めに始める
  • 引き継ぎの期間を考えて、引退の時期に余裕を持たせる

予定どおりに進まないことも想定して、ゆとりのあるスケジュールを立てることが大切です。

よくある質問

3年前より遅く始めても、間に合いますか?

間に合うこともあります。会社の準備が整っていて、買手が早く見つかれば、1年以内に成約する例もあります。ただし、準備に時間をかけられないと、条件の選択肢が少なくなる傾向があります。思い立ったときが、動き出しどきです。

準備している間に、会社の業績が変わったらどうなりますか?

業績の変化は、価格や買手の関心に影響します。業績が上向いているときは、条件のよい売却を目指しやすくなります。反対に、下がっているときは、原因を整理して、買手に説明できるようにしておくことが大切です。

準備の途中で、売るのをやめることはできますか?

できます。準備の段階では、売るかどうかを決める必要はありません。相談したあとで、自分で続けると決めても問題ありません。ただし、仲介の契約を結んだあとは、解約の条件があるので、契約書を確認してください。

早めの準備が、選べる道を広げる

引退の3年前に方向性を決め、2年前に会社を整え、1年前に相談を始め、半年前に買手と話を進める。このように、時間をかけて準備を重ねていけば、焦らずに、納得のいく相手を選びやすくなります。

「まだ早い」と思える時期から動くことは、決して無駄ではありません。自分の会社の準備状況を、このカレンダーと見比べながら、できることから一つずつ進めていきましょう。

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