譲渡制限株式とは?M&Aで株式を売るときの承認手続きと流れ、注意点を解説
M&Aで株式譲渡によって会社を売却するとき、多くの中小企業では、株式を売るために「会社の承認」が必要になります。
これは、会社の定款で、株式を譲渡するときに会社の承認を必要とする「譲渡制限」が定められているためです。このような株式を「譲渡制限株式」といいます。
承認の手続きを正しく行わないと、株式の譲渡が会社に対して有効にならず、M&Aの成約や、その後の会社の運営に問題が生じることもあります。
ここでは、譲渡制限株式の意味と、M&Aで株式を譲渡するときの承認手続きの流れ、承認する機関、必要な書類、注意点について解説します。
譲渡制限株式とは?

譲渡制限株式とは、どのような株式なのですか?
株式を他人に譲渡するときに、会社の承認が必要だと定款で定められている株式のことです。会社にとって好ましくない人が株主になることを防ぐ目的で、多くの中小企業が採用しています。
株主を自由に変えられないようにする仕組みなんですね!
株式は本来、自由に譲渡できるのが原則です。しかし、会社法では、定款で定めることにより、株式の譲渡に会社の承認を必要とすることが認められています。[注1]
中小企業の多くは、経営者やその家族、信頼できる関係者だけで株式を持ち、知らない第三者が株主になることを防ぐために、すべての株式に譲渡制限をつけています。
自社の株式に譲渡制限があるかの確認方法
自社の株式が譲渡制限株式かどうかは、次の資料で確認できます。
- 定款:「当会社の株式を譲渡により取得するには、取締役会(または株主総会)の承認を受けなければならない」といった定めがあるか
- 登記事項証明書(履歴事項全部証明書):「株式の譲渡制限に関する規定」の欄に記載があるか
株式の譲渡制限の定めは登記されるため、登記事項証明書を取り寄せれば、すぐに確認することができます。
M&Aで譲渡制限株式を売るときの承認手続き

M&Aで譲渡制限株式を売るときは、どのような手続きが必要なのですか?
株主(売手)または買手が、会社に対して「株式の譲渡を承認してほしい」と請求し、会社が定款で決められた機関で承認を決めます。承認されたら、株主名簿を書き換えて手続きが完了します。
会社に正式に承認してもらう手順があるんですね!
譲渡制限株式を譲渡するときの一般的な流れは、次のとおりです。
| 手順 | 内容 |
|---|---|
| 1. 譲渡承認の請求 | 売手(または買手)が、会社に株式の譲渡を承認するよう請求する |
| 2. 承認機関での決定 | 取締役会や株主総会など、定款で定めた機関で承認するかどうかを決める |
| 3. 結果の通知 | 会社が、請求した人に承認するかどうかを通知する |
| 4. 株式譲渡契約・代金の支払い | 承認を得たうえで、株式の譲渡を実行する |
| 5. 株主名簿の書き換え | 会社が、株主名簿の株主を買手に書き換える |
承認する機関
譲渡を承認する機関は、会社の形によって異なります。
| 会社の形 | 承認する機関(原則) |
|---|---|
| 取締役会を置いている会社 | 取締役会 |
| 取締役会を置いていない会社 | 株主総会 |
ただし、定款で別の機関(たとえば代表取締役など)を承認機関と定めている場合は、その定めに従います。自社の定款で、誰が承認するのかを確認しておきましょう。
通知しないと承認したとみなされる
会社は、譲渡承認の請求を受けた日から2週間以内(定款でこれより短い期間を定めた場合はその期間)に、承認するかどうかを通知しなければなりません。期間内に通知しなかった場合は、承認したとみなされます。[注1]
M&Aでの実際の進め方
M&Aでは、承認の手続きはいつ行うのですか?
一般的には、株式譲渡契約を結んだあと、クロージング(代金の支払いと株式の引き渡し)までの間に承認を得ます。クロージングの前提条件として、承認を得ることを契約に定めておくのが一般的です。
契約の中で、承認のタイミングまで決めておくんですね!
中小企業のM&Aでは、売手の経営者が会社の代表者であり、株式の大部分を持っていることがほとんどです。そのため、承認の手続きは形式的なものになることが多いですが、手順は正しく踏んでおく必要があります。
よくある進め方
- 株式譲渡契約を結ぶ
- 売手が会社に譲渡承認請求書を提出する
- 取締役会(または株主総会)を開いて承認し、議事録を作る
- 会社が承認通知書を出す
- クロージングで代金を受け取り、株式を引き渡す
- 株主名簿を書き換える
買手は、デューデリジェンス(買収監査)やクロージングの際に、承認の手続きが正しく行われたことを示す書類の提出を求めるのが一般的です。
承認手続きで必要な主な書類
承認の手続きには、どのような書類が必要ですか?
譲渡承認請求書、取締役会議事録または株主総会議事録、譲渡承認通知書、株主名簿書換請求書などが主な書類です。株券を発行している会社では、株券の引き渡しも必要です。
書類をきちんとそろえておくことが大切なんですね!
| 書類 | 内容 |
|---|---|
| 譲渡承認請求書 | 売手または買手が、会社に譲渡の承認を求める書面 |
| 取締役会議事録・株主総会議事録 | 譲渡の承認を決めたことの記録 |
| 譲渡承認通知書 | 会社が、承認したことを請求者に知らせる書面 |
| 株主名簿書換請求書 | 株主名簿の名義を買手に書き換えるよう求める書面 |
| 株主名簿 | 書き換え後の株主の記録 |
| 株券(発行会社のみ) | 株券を発行する会社では、株券を買手に引き渡す |
株券を発行する会社かどうかに注意
定款で株券を発行すると定めている会社(株券発行会社)では、株式を譲渡するときに株券を引き渡さなければ、譲渡の効力が生じません。古い会社では、定款で株券を発行すると定めたまま、実際には株券を発行していないこともあるため、注意が必要です。
承認されなかった場合
もし会社が譲渡を承認しなかったら、どうなるのですか?
請求者は、会社や会社が指定する人に株式を買い取るよう求めることができます。ただし、M&Aでは売手の経営者が会社の代表者であることが多いため、承認されないケースはまれです。
承認されない場合の仕組みも、法律で決まっているんですね!
会社法では、譲渡を承認しない場合に、会社自身が株式を買い取るか、会社が指定した人に買い取らせるよう請求できる仕組みが設けられています。[注1]
M&Aで問題になりやすいのは、経営者以外にも株主がいて、その株主の協力が得られない場合です。株主が複数いる場合は、売却の前に話し合い、協力を得ておくことが大切です。
売手が注意したいポイント
譲渡制限株式の手続きで、売手が特に気をつけることはありますか?
定款と登記の内容を確認すること、過去の株式の譲渡で手続きが漏れていないか確認すること、書類をきちんと残しておくことが大切です。
今回の売却だけでなく、過去の手続きも見直す必要があるんですね!
定款と登記の内容を確認する
定款の内容と登記の内容が一致しているか、承認機関はどこか、株券を発行する定めがあるかを確認しましょう。古い定款のままになっている場合は、売却の前に専門家に確認してもらうと安心です。
過去の譲渡の手続きを確認する
相続や贈与、親族間の売買などで、過去に株式の持ち主が変わっている場合、そのときに承認の手続きが行われていたかを確認しましょう。手続きが漏れていると、現在の株主が誰なのかがはっきりしない原因になります。
書類をきちんと残す
承認の手続きに関する書類は、買手のデューデリジェンスで確認されることがあります。議事録や承認通知書などは、きちんと作成して保管しておきましょう。
事業譲渡の場合は承認が必要?
株式の譲渡制限は、株式を譲渡する場合のルールです。事業譲渡では株式を売買するわけではないため、譲渡制限株式の承認手続きは必要ありません。
ただし、事業の全部や重要な一部を譲渡する場合は、会社法により、原則として株主総会の特別決議で承認を得る必要があります。株式譲渡と事業譲渡のどちらを選ぶかによって、必要な社内の手続きが変わる点に注意しましょう。
| 売却の方法 | 主な社内の手続き |
|---|---|
| 株式譲渡(譲渡制限株式) | 定款で定めた機関による譲渡の承認 |
| 事業譲渡(全部・重要な一部) | 原則として株主総会の特別決議 |
譲渡制限株式でよくある質問
譲渡制限株式について、ほかにも気になることがあります。
「相続で株式を受け取るときも承認が必要なのか」「承認の手続きは誰に頼めばいいのか」といったご質問をよくいただきます。
どちらも知っておきたいです!
相続で株式を受け取るときも、承認が必要ですか?
相続によって株式を受け取る場合は、譲渡ではないため、会社の承認は必要ありません。ただし、定款に定めがあれば、会社が相続人に対して株式を売り渡すよう請求できる場合があります。相続と事業承継の関係については、専門家に相談しておきましょう。
承認の手続きは、誰に頼めばいいですか?
M&Aの場合は、仲介会社が手続きの流れを案内し、書類の作成は司法書士や弁護士などの専門家がサポートするのが一般的です。定款の変更や登記が必要になる場合も、専門家に依頼すると安心です。
承認の手続きには、どのくらいかかりますか?
取締役会や株主総会を開くための日程の調整が必要ですが、売手の経営者が株式の大部分を持っている会社であれば、数日から数週間ほどで手続きを済ませられることが多いです。クロージングの日程に間に合うよう、余裕を持って準備しましょう。
譲渡制限株式の手続きを正しく行って、スムーズにM&Aを進めよう
譲渡制限株式とは、株式を譲渡するときに会社の承認が必要な株式のことで、多くの中小企業が採用しています。M&Aで株式譲渡を行うときは、譲渡承認の請求、承認機関での決定、通知、株主名簿の書き換えという手順を踏む必要があります。
定款や登記の内容、過去の株式の譲渡の手続きを売却の前に確認し、必要な書類をきちんとそろえておくことが大切です。
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