塗装・防水工事会社のM&A|売却を考える社長と仲介会社の相談から学ぶ、職人・資格・元請との関係の見られ方
外壁塗装、屋根の塗装、防水工事など、住まいや建物を守る仕事を担う塗装・防水工事の会社は、地域の暮らしに欠かせない存在です。一方で、職人の高齢化や若い担い手の不足は年々深刻になっており、「自分が現場に立てなくなったら会社を続けられない」「息子や娘は、別の仕事に就いていて継ぐ予定がない」と悩む社長も少なくありません。
建設業界では、職人の確保がむずかしいことから、すでに技術を持つ職人がそろっている会社を、買収で迎え入れたいと考える会社が増えています。塗装・防水の会社のM&Aは、決して珍しいものではなくなりつつあります。
この記事では、塗装・防水工事会社の売却を考えている社長と、M&A仲介会社の担当者との相談の流れに沿って、買手がどこを見ているのか、売却の前に何を準備すればよいのかを解説します。
※この記事の相談の場面は、よくある相談をもとにした例です。制度の細かい扱いは、地域や事案によって異なるため、実際の手続きは必ず関係機関や専門家に確認してください。
相談1:社長と数人の職人だけの小さな会社でも、売れますか?

社長の私と、職人が5人ほどの小さな塗装会社です。大きな設備もないのですが、会社を引き継いでくれる人はいるのでしょうか?
十分に可能性があります。塗装・防水の会社は、工場や大きな設備よりも、職人の技術、お客様や元請との関係、地域での評判が価値になります。人手の確保に悩む会社にとって、職人がそろっている会社は、新しく人を採用するよりも、早く現場の力を増やせる存在です。
設備がなくても、職人の力が会社の価値になるんですね。
塗装・防水の会社の買手になりやすいのは、次のような会社です。
- 同じ地域の塗装・防水の会社:職人と受注の量を増やして、対応できる現場を広げたい
- リフォームや工務店などの会社:自社で塗装や防水の工事を担えるようにして、外注を減らしたい
- 建設会社や設備工事の会社:建物の維持管理や改修の工事に、領域を広げたい
- 不動産の管理会社やビルメンテナンスの会社:修繕や改修の工事を、自社で受けたい
- 異業種から建設に参入したい会社:すでに技術と許可を持つ会社を、足がかりにしたい
相談2:買手は、会社のどこを見ますか?

売却の話をするとき、買手は、どのような点を見るのでしょうか?
主に、人、仕事、お金の3つを見ます。塗装・防水の会社では、特に「人」が重視されます。職人の人数と年齢、技術の高さ、そして社長が抜けたあとも現場が回るかどうかが、大きなポイントです。
社長がいなくなっても、現場が回るかどうかが大事なんですね。
買手が確認する主な項目
| 項目 | 主な確認内容 |
|---|---|
| 職人の状況 | 人数、年齢、経験年数、持っている資格、社長との関係 |
| 受注の状況 | 元請と直接受注の割合、主な取引先、繰り返し依頼のあるお客様の数 |
| 工事の実績 | 年間の工事の件数と金額、得意な工事の種類 |
| 資格と許可 | 建設業の許可の有無、技術者の資格、塗装や防水に関する技能の資格 |
| 財務 | 売上と利益の推移、材料費や外注費の割合、借入金の状況 |
| 保証とクレーム | 施工後の保証の内容、手直しやクレームの件数 |
相談3:職人が辞めてしまわないか、心配です
売却の話が出たら、職人たちが不安になって、辞めてしまうのではないかと心配です。
その心配は、多くの社長が持っています。職人が辞めてしまうと、会社の価値が大きく下がってしまうため、買手も同じ点を心配します。だからこそ、職人に、いつ、どのように伝えるかが大切です。まずは、仲介会社と相談して、基本的な合意ができた後など、適切なタイミングで伝えるのが一般的です。
伝えるタイミングを、慎重に考える必要があるんですね。
職人に伝えるときのポイント
- 雇用や待遇が守られるか:給与、休日、働き方が、売却のあとも大きく変わらないことを、できるだけ具体的に伝える
- 買手の人柄や方針:どのような会社が、どのような考えで会社を引き継ぐのかを、直接会って話す機会をつくる
- 将来の見通し:会社が大きくなれば、仕事の量や、キャリアの選択肢が増える可能性も伝える
- 伝える順番:まず、中心になる職人や番頭役の人に、先に相談するのも一つの方法
M&Aの契約のなかで、一定の期間、職人の雇用を維持することを、条件として盛り込むケースもあります。職人の不安をやわらげるために、買手と、条件の内容を話し合っておきましょう。
相談4:建設業の許可や資格は、売却したらどうなりますか?
うちは、建設業の許可を持っています。会社を売ったら、許可や、技術者の資格はどうなるのでしょうか?
M&Aの方法によって、扱いが変わります。株式譲渡の場合は、許可を受けている会社そのものが変わらないため、許可が続くのが一般的です。ただし、許可には、経営業務の管理を行う体制や、営業所ごとに置く技術者などの要件があります。社長が退任するときに、これらの要件を満たし続けられるかを、必ず確認する必要があります。
社長が退任すると、許可の要件にも影響することがあるんですね。
方法による扱いの違いの目安
| 方法 | 許可の扱い(一般的な目安) |
|---|---|
| 株式譲渡 | 会社が変わらないため、許可が続くことが一般的。役員や技術者が変わる場合は、届出や要件の確認が必要 |
| 事業譲渡 | 許可は引き継げないのが一般的で、買手が自分で許可を取る必要がある場合が多い |
許可の要件や、変更の届出、承継の手続きなどの扱いは、法律の改正や、都道府県ごとの運用によって異なることがあります。売却を進める前に、許可を受けている都道府県や国の窓口、行政書士などの専門家に、必ず事前に確認しておきましょう。
相談5:元請や施主との関係は、引き継げますか?
仕事のほとんどは、長年付き合いのある元請や、リフォーム会社から来ています。この関係は、売却したあとも続くのでしょうか?
取引先との関係は、買手が大きく評価する点です。ただし、元請や取引先が「社長個人」を信頼して仕事を出している場合は、社長が退くと、受注が減るのではないかと、買手が不安に感じます。そのため、売却のあとも一定の期間、社長が残って、取引先に買手を紹介する形が、よくとられます。
社長が、橋渡し役になるんですね。
受注の状況は、次のような形で整理しておくと、買手が理解しやすくなります。
- 受注先の内訳:元請、リフォーム会社、工務店、不動産会社、一般のお客様の割合
- 特定の取引先への依存度:売上の大部分を、1社や2社に頼っていないか
- 繰り返しの受注:定期的な改修やメンテナンスで、継続して仕事をもらえている取引先
- 契約や取り決め:取引の条件が、書面で残っているか
- 営業の方法:紹介、ホームページ、チラシなど、どのように仕事を得ているか
特定の取引先に売上が集中していると、その取引先との関係が変わったとき、会社の経営が大きく影響を受けます。売却の前に、取引先を少しずつ広げておくことも、会社の価値を高める準備になります。
相談6:施工したあとの保証は、どうなりますか?
外壁塗装や防水工事は、何年かの保証をつけています。売却したら、この保証は誰が責任を持つのでしょうか?
株式譲渡の場合、会社そのものが引き継がれるため、保証の責任も会社が負い続けます。つまり、買手は、過去の工事の保証の責任も一緒に引き継ぐことになります。そのため、買手は、保証の内容、手直しの実績、クレームの履歴を細かく確認します。
過去の工事の責任も、買手が引き継ぐことになるんですね。
買手が確認することが多い項目
- 保証の期間と内容:何年間、どのような不具合を保証しているのか
- 過去の手直しの件数と費用:どのくらいの頻度で、手直しの工事が発生したか
- クレームの履歴:お客様とのトラブルや、解決していない問題の有無
- 工事の記録:施工の写真、使った材料、工程の記録が残っているか
- 保険の加入状況:工事の保険や、賠償責任の保険に入っているか
工事の記録は、売却の話し合いのためだけでなく、日頃のお客様への説明にも役立ちます。写真や材料の記録を整理して、きちんと保管しておくと、買手からの信頼にもつながります。
相談7:売却の前に、準備しておくことは何ですか?
売却を決めるのは、まだ先になりそうです。いまのうちに、準備しておくとよいことはありますか?
時間があるときに、次の準備を少しずつ進めておくと、売却の条件が良くなりやすくなります。特に、社長に頼っている仕事を、少しずつ職人や番頭役の人に任せていくことが大切です。
社長がいなくても回る会社にしておくことが、準備になるんですね。
売却前の準備リスト
- 社長に頼っている仕事の洗い出し:見積もり、営業、現場の管理、お金の管理など、社長しかできない仕事を書き出す
- 職人の育成と役割分担:現場を任せられる人を、少しずつ育てる
- 帳簿の整理:売上と利益の記録を整理し、会社のお金と社長個人のお金の区別を明確にする
- 資格と許可の確認:建設業の許可、技術者の資格の期限や要件を確認する
- 工事の実績の整理:過去数年の工事の件数、金額、種類を一覧にする
- 取引先の整理:主な取引先、取引の条件、依存度を整理する
- 保証とクレームの記録:手直しの履歴や、保証の内容をまとめる
よくある質問
Q. 一人親方に近い、とても小さな会社でも売却はできますか?
社長が現場の中心で、職人がほとんどいない場合は、買手がつきにくいことがあります。ただし、お客様のリストや、元請との関係、技術や資格に価値を見いだす買手もいます。会社の形でのM&Aがむずかしい場合は、事業の一部を引き継ぐ方法や、同業者との協力の形も含めて、仲介会社に相談してみましょう。
Q. 社用車や機材、足場などの扱いはどうなりますか?
株式譲渡の場合は、会社が持つ車両や機材、足場も、基本的にそのまま引き継がれます。ただし、社長個人の名義になっている車や機材があるときは、会社に移すのか、買い取ってもらうのか、あらかじめ整理が必要です。リース契約のものは、契約の内容を確認しておきましょう。
Q. 借入金や個人保証はどうなりますか?
M&Aでは、買手が借入金を引き継ぐか、返済することで、社長の個人保証を外すことを目指します。個人保証の解除は金融機関の同意が必要になるため、売却の話し合いの早い段階から、仲介会社に進め方を相談しておきましょう。
Q. 売却の話は、取引先やお客様に知られませんか?
最初の話し合いの段階では、会社の名前を伏せた資料を使い、守秘義務契約を結んだ買手にだけ、少しずつ情報を開示するのが一般的です。取引先や職人に伝える時期は、仲介会社と相談して、慎重に決めましょう。
Q. 売却したあとも、現場に出続けられますか?
買手との合意の内容によります。売却のあとも、一定の期間、役員や顧問として会社に残り、職人の指導や取引先への紹介を担当する形は、よくあります。残る期間や役割、報酬は、契約のなかで、あらかじめ決めておきましょう。
Q. 材料の仕入れ先との関係はどうなりますか?
塗料や防水材の仕入れ先との取引条件が、会社の利益に影響することがあります。仕入れ先との取引が社長個人のつながりに頼っている場合は、買手にそのことが伝わるよう整理しておきましょう。売却のあとの取引について、仕入れ先の担当者に相談するタイミングは、仲介会社と決めておくのが安心です。
塗装・防水工事会社のM&Aは、人・許可・取引先の整理がカギ
塗装・防水工事会社のM&Aでは、職人の技術と人数、建設業の許可や技術者の資格、元請や施主との関係、そして施工後の保証が、買手の大きな確認点になります。大きな設備がなくても、職人や取引先の信頼が会社の価値になるのが、この業種の特徴です。
社長に頼っている仕事を、少しずつ職人に任せたり、取引先を広げたり、工事の記録を整理したりと、できる準備から始めることが、納得のいく売却につながります。建設業の許可の扱いなどは、行政の窓口や専門家に、早めに確認しておきましょう。
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