M&A成立後の登記と届出|売却の前に知っておきたい、時系列で見る手続きのスケジュール

M&A成立後の登記と届出|売却の前に知っておきたい、時系列で見る手続きのスケジュール

M&Aの最終契約を結んで、代金を受け取れば、売却は終わり。そう考えている経営者の方は多いかもしれません。しかし、実際には、契約を結んだあとにも、登記や各種の届出など、やるべき手続きが続きます。特に、売却のあとも会社に関わる場面では、手続きの漏れが思わぬ問題につながることがあります。

この記事では、M&Aの売却のなかでも特に多い株式譲渡を例にして、契約の前から成立後までの手続きを、時系列に沿って整理します。売手の経営者が、いつ、何を、誰と進めるのか、全体の流れをつかむための参考にしてください。

※この記事で示す期限や手続きの内容は、一般的な目安です。実際の手続きは、会社の状況や契約の内容によって異なるため、司法書士、税理士、社会保険労務士などの専門家と、仲介会社に必ず確認してください。

全体の流れ|手続きは4つの時期に分けて考える

書類を確認する様子

M&A成立後の手続きは、数が多くて、混乱しやすいものです。時期ごとに分けて考えると、整理しやすくなります。

時期主なできごと
契約の前必要な承認の確認、株主や取引先の同意の確認、書類の準備
契約の当日(クロージング)株式の譲渡、代金の支払い、役員の辞任届の受け取りなど
契約の直後(1か月以内)役員変更などの登記、銀行や取引先への届出
契約の後(数か月以内)税務や社会保険の手続き、引き継ぎの期間中の対応

時期1:契約の前に確認しておくこと

合意を交わす握手
 

契約を結ぶ前に、手続きの面で確認しておくことはありますか?

 
 

はい、あります。売却の話が進んでから慌てないために、契約の前に確認しておくべきことがいくつかあります。特に、会社の株式に、譲渡の制限がついていないかは、必ず確認してください。

 
 

契約のあとではなく、前から準備が始まるんですね。

 

契約の前の主な確認事項

  • 株式の譲渡制限:中小企業の多くは、株式の譲渡に会社の承認が必要な「譲渡制限」をつけています。株式を売るときには、取締役会や株主総会で、承認を受ける手続きが必要になるのが一般的です
  • 株主の確認:登記や帳簿の上の株主と、実際の株主が一致しているか。名義だけの株主がいないか
  • 取引先との契約の条項:経営者や株主が変わったときに、取引先の同意や通知が必要になる条項がないか
  • 金融機関との契約:借入金の契約に、経営者の変更に関する条項がないか。個人保証の解除の進め方
  • 許認可の確認:業種によって、経営者や役員が変わったときに届出が必要な許認可がないか

特に、許認可の扱いは、業種や地域によって異なります。建設業、運送業、介護事業、飲食店など、許認可が必要な業種では、役員や責任者が変わったときの届出の要否と期限を、あらかじめ管轄の窓口に確認しておきましょう。

時期2:契約の当日(クロージング)にそろえるもの

 

契約の当日には、どのようなことが行われるのですか?

 
 

クロージングと呼ばれる、株式の引き渡しと代金の支払いが行われます。同時に、売手の経営者が役員を退任する場合は、辞任届などの書類を渡します。当日にそろえる書類は多いため、仲介会社や専門家が、事前にチェックリストを用意してくれるのが一般的です。

 
 

当日までに、書類をきちんとそろえておく必要があるんですね。

 

クロージングの当日に用意することが多い書類

書類主な内容
株式譲渡契約書株式の売買の条件を定めた契約書
株式譲渡承認の議事録譲渡制限のある株式で、会社が譲渡を承認したことを示す書類
株主名簿の書き換えの書類株主が変わったことを、会社の帳簿に反映するための書類
辞任届役員を退任する場合に、本人が提出する書類
役員の就任承諾書など新しく役員になる人の就任に関する書類
会社の印鑑や通帳などの引き渡し代表者が変わる場合の、実印、銀行印、通帳、鍵など

会社の実印や銀行印、通帳、事務所の鍵などの引き渡しは、見落としやすい点です。誰にいつ渡すのかを、事前に決めて、記録に残しておきましょう。

時期3:契約の直後に進める手続き

 

契約が終わったあと、すぐにやるべき手続きは何ですか?

 
 

まず、役員が変わる場合の「役員変更の登記」です。会社法では、役員の変更が生じたときは、原則として、変更のあった日から2週間以内に、本店の所在地で登記をする必要があります。あわせて、銀行や主な取引先への届出も、早めに進めましょう。

 
 

2週間というのは、意外と短いですね。

 

登記の主なポイント

  • 役員変更の登記:代表取締役や取締役が変わったときに、法務局に申請する登記
  • 本店の移転や商号の変更:買手の方針で、会社の住所や社名が変わる場合に必要な登記
  • 登記の申請は専門家に依頼するのが一般的:司法書士に依頼するのが一般的で、必要な書類も司法書士が案内してくれる

登記は、売手の経営者が退任するとき、買手が就任するときのどちらにも関係します。仲介会社や買手と、誰が手続きの窓口になるのかを、契約の前に決めておくと安心です。

銀行や取引先への届出

代表者や役員が変わったときは、次のような相手に、早めに連絡や届出を行います。

  • 取引のある銀行:代表者や印鑑の変更の届出、借入金の契約の変更
  • 主な取引先:代表者の変更の連絡、契約の名義の確認
  • リースやクレジットの会社:契約の名義や保証人の変更
  • 保険の会社:契約者や被保険者の変更
  • 賃貸借契約の貸主:代表者や保証人が変わるときの手続き

取引先への伝え方や時期は、売却の内容や買手の考えによって変わります。いつ、誰が、どのように伝えるのかを、買手と一緒に決めておくことが大切です。

時期4:契約の後に進める税務・社会保険の手続き

 

登記や届出が終わったら、その後はもう何もないのですか?

 
 

まだ続きます。代表者や役員が変わると、税務署、都道府県や市区町村の窓口、年金事務所などへの届出が必要になることがあります。どの届出がいつまでに必要になるかは、会社の状況によって異なるため、税理士や社会保険労務士に確認しましょう。

 
 

会社の外の窓口にも、届出があるんですね。

 

主な窓口と手続きの例

窓口手続きの例(会社の状況により異なる)
税務署代表者の変更などに伴う、異動の届出。決算や申告の担当者の確認
都道府県・市区町村の税の窓口代表者や住所の変更に伴う、異動の届出
年金事務所役員や代表者の変更に伴う、社会保険の手続き
公共職業安定所(ハローワーク)雇用保険に関する手続き
業種ごとの許認可の窓口役員や責任者の変更の届出

売手の経営者個人が行う手続き

売手の経営者個人にも、売却のあとに行う手続きがあります。

  • 確定申告:株式を売って得た利益は、原則として、翌年に確定申告をして、税金を納める必要があります。税率や計算の方法については、税理士に確認しましょう
  • 役員を退任した場合の社会保険の変更:役員報酬がなくなると、加入する健康保険や年金の種類が変わることがあります
  • 個人保証の解除の確認:会社の借入金に対する個人保証が、予定どおり外れているかの確認

株式を売ったときの税金は、金額が大きくなることが多いため、納税の資金を手元に確保しておくことも大切です。契約の前から、税理士と見込みの金額を相談しておくと、後で困りません。

時期別・手続きのスケジュール表

最後に、これまでの内容を、ひとつの表にまとめます。実際の期限や必要な手続きは、会社の状況や契約の内容で変わるため、あくまで目安として、専門家とともに確認してください。

時期手続き主な担当
契約の前株式の譲渡制限の確認、株主の確認、許認可・契約の確認売手、仲介会社、専門家
契約の前株主総会や取締役会の承認の準備売手、司法書士
契約の当日契約書の締結、代金の支払い、辞任届などの受け渡し売手、買手、専門家
契約の当日実印や通帳、鍵などの引き渡し売手、買手
契約の直後役員変更などの登記(原則、変更の日から2週間以内)司法書士
契約の直後銀行や取引先への届出や連絡買手、売手
契約の後税務署や年金事務所などへの届出買手、会社の担当者、税理士、社会保険労務士
翌年株式の譲渡益についての確定申告売手、税理士

よくある質問

Q. 登記を忘れたり、遅れたりしたら、どうなりますか?

役員変更の登記を、期限を過ぎても行わないと、会社法にもとづいて、過料が科される可能性があります。また、登記の内容が実際と違うままだと、取引先や金融機関との取引でも、トラブルの原因になりえます。売手の経営者が退任したにもかかわらず、登記上は役員のままになっていると、責任を問われる場面もあるため、退任の登記が確実に行われたかを、必ず確認してください。

Q. 売却したあとも、経営者が会社に残る場合の手続きはどうなりますか?

売却のあとも、一定の期間、役員や顧問として会社に残る場合は、その立場に合わせて、手続きが変わります。役員として残るなら、役員の変更の登記は必要ない場合もありますが、代表者が変わる場合には必要です。顧問などで残る場合は、契約の内容や報酬の取り決めも、事前に書面で確認しておきましょう。

Q. 手続きの費用は、誰が負担しますか?

登記の費用や司法書士への報酬などは、契約の内容によって、売手が負担するのか、買手が負担するのか、取り決めが異なります。契約の前に、どの手続きを誰が行い、費用を誰が負担するのかを、契約書や覚書で決めておくと、あとで揉めずに済みます。

Q. 事業譲渡の場合は、手続きが変わりますか?

はい、変わります。事業譲渡では、資産や契約、従業員を一つひとつ引き継ぐため、契約の名義変更や、許認可の取り直し、従業員の雇用契約の手続きなど、株式譲渡より手続きの量が多くなる傾向があります。どちらの方法を選ぶかで、手続きの内容も大きく変わるため、売却の方法を決める段階から、専門家に相談しておきましょう。

Q. 仲介会社は、これらの手続きを手伝ってくれますか?

仲介会社は、契約の条件の調整や、クロージングの段取りを支援してくれます。ただし、登記は司法書士、税務は税理士、社会保険は社会保険労務士というように、専門の資格が必要な手続きは、それぞれの専門家が担当します。仲介会社に、どこまでを支援してもらえるのかを、依頼の前に確認しておきましょう。

M&A成立後の手続きは、時期ごとに整理して漏れを防ぐ

M&Aは、契約を結んで代金を受け取れば終わり、というものではありません。契約の前の確認、クロージングの当日の書類、契約直後の登記と届出、その後の税務や社会保険の手続きまで、やるべきことが時期ごとに続きます。

特に、役員変更の登記は、原則として変更の日から2週間以内と、期限が短いため、早めに司法書士と段取りを決めておくことが大切です。売手の経営者にとっては、株式を売った利益の確定申告や、個人保証が外れたかの確認も、忘れてはいけない手続きです。

全体の流れをあらかじめ頭に入れておくことで、売却のあとで慌てずに済みます。手続きの細かい内容は、専門家と仲介会社に確認しながら、一つずつ進めましょう。

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