会社売却の前にやる「お金と帳簿の整理」チェックリスト30|買手の調査で困らないために

会社売却の前にやる「お金と帳簿の整理」チェックリスト30|買手の調査で困らないために

会社を売ろうと考えたとき、買手は必ず会社の「お金と帳簿」を細かく調べます。この調査は、デューデリジェンス(買収監査)と呼ばれます。

中小企業では、会社のお金と社長個人のお金が混ざっていたり、帳簿の上の数字と実際の状態がずれていたりすることが珍しくありません。普段の経営では大きな問題にならなくても、売却の場面では、価格が下がったり、交渉が止まったりする原因になります。

この記事では、会社を売る前に確認しておきたい「お金と帳簿」のポイントを、30のチェック項目にまとめました。項目ごとに、なぜ確認が必要なのか、どう整えればよいのかを解説します。すべてを一度に終わらせる必要はありません。売却を考え始めたら、できるところから一つずつ確認していきましょう。

なぜ、売る前に整理が必要なのか

決算書と電卓で財務を整理する
 

帳簿の整理は、売却が決まってからでも間に合いませんか?

 
 

売却が決まってからでは、間に合わないことがあります。買手の調査は、基本合意のあと、数週間から数か月の短い期間で行われます。その段階で問題が見つかると、価格の引き下げを求められたり、買手が手を引いてしまったりすることがあるためです。

 
 

問題が見つかってからでは、交渉で不利になるんですね!

 

売る前に整理しておくと、次のような良いことがあります。

  • 会社の本当の利益の力が分かり、売却価格の目安を正しくつかめる
  • 買手の調査がスムーズに進み、売却までの期間が短くなる
  • 「隠していた」と疑われることがなく、買手との信頼関係が保てる
  • 売却後に、表明保証の違反でお金を返すような事態を防げる

チェック1:会社と社長のお金の区別(7項目)

書類を見直して売却の準備を進める経営者
 

会社と社長のお金が混ざっていると、どのような問題があるのですか?

 
 

会社の本当の利益や財産が分かりにくくなるため、買手が会社の価値を判断しにくくなります。また、社長への貸付金などは、売却の前に精算しておかないと、価格の計算や手取りに影響します。

 
 

まずは会社と自分のお金を分けることが、整理の第一歩なんですね!

 
  • □ 会社から社長への貸付金(役員貸付金)が残っていないか
  • □ 社長から会社への貸付金(役員借入金)の金額と扱いを決めているか
  • □ 社長個人の車や旅行、飲食などの費用を、会社の経費にしていないか
  • □ 家族に、実際の仕事に見合わない給与を払っていないか
  • □ 会社の名義の生命保険の契約内容(受取人や解約したときの返戻金)を把握しているか
  • □ 社長個人の名義の土地や建物を、会社が使っていないか(賃料の取り決めはあるか)
  • □ 会社のお金と社長個人のお金の口座を、はっきり分けているか

役員貸付金は、売却の前に精算する

会社から社長にお金を貸している「役員貸付金」は、帳簿の上では会社の財産ですが、買手から見ると「本当に返ってくるのか分からないお金」です。売却の前に返済して精算しておくのが一般的です。返済の資金がない場合は、売却代金や役員退職金との関係も含めて、税理士に相談しましょう。

役員借入金の扱いも決めておく

反対に、社長が会社にお金を貸している「役員借入金」は、会社の借金です。売却のときに買手に返済してもらうのか、社長が返済を求めないことにするのかによって、価格や手取りが変わります。どちらが有利かは状況によって異なるため、早めに税理士と相談しておきましょう。

私的な経費は「調整」して説明する

社長個人の費用を会社の経費にしていると、帳簿の上の利益が実際より小さく見えます。買手との交渉では、こうした費用を取り除いた「本当の利益」を説明することがあります。そのためにも、どの費用が私的なものかを一覧にしておくと便利です。ただし、私的な費用を会社の経費にすることは税金の面でも問題になるため、売却を考えたら早めにやめましょう。

チェック2:売上と取引先(5項目)

  • □ 売上が、毎期どのように推移しているかを説明できるか
  • □ 取引先ごとの売上の割合を整理しているか(1社に偏っていないか)
  • □ 主な取引先との契約書が、きちんと残っているか
  • □ 回収できていない売掛金や、回収が長く遅れている売掛金がないか
  • □ 前受金や、値引き・返品の約束など、帳簿に表れにくい取り決めがないか

回収できない売掛金は整理しておく

何年も回収できていない売掛金は、帳簿の上では財産でも、実際には価値がありません。買手の調査では、こうした売掛金は価値のないものとして扱われ、会社の価値を下げる要因になります。回収の見込みがないものは、税理士と相談して、売却の前に処理しておきましょう。

チェック3:在庫と固定資産(5項目)

 

在庫や設備も、買手に詳しく確認されるのですか?

 
 

はい。帳簿の上の金額と、実際の数や状態が合っているかを確認されます。売れない古い在庫や、使っていない設備があると、帳簿の金額ほどの価値がないと判断され、価格の交渉に影響します。

 
 

帳簿の数字と、現物の状態を合わせておくことが大切なんですね!

 
  • □ 帳簿の在庫と、実際の在庫の数が合っているか(棚卸しをしているか)
  • □ 売れる見込みのない古い在庫や、傷んだ在庫が残っていないか
  • □ 帳簿に載っている設備や車両が、実際にあって使えているか
  • □ リース契約の一覧と、残りの期間・金額を整理しているか
  • □ 会社の土地や建物の登記簿と、帳簿の内容が合っているか

棚卸しは、売却の前に一度しっかり行う

在庫が多い業種では、帳簿の在庫の金額が、実際よりも大きくなっていることがよくあります。売却の前に一度、すべての在庫を数えて、売れる見込みのないものは処分などを検討しましょう。帳簿の数字と現物が合っているだけで、買手からの信頼は大きく変わります。

チェック4:借入金と保証(4項目)

  • □ 金融機関からの借入金の一覧(残高・金利・返済の期限)を整理しているか
  • □ 社長が個人保証や担保を提供している借入金を把握しているか
  • □ 借入の契約に、株主や経営者が変わるときの決まりがないかを確認したか
  • □ 他の会社の借入金の保証人に、会社がなっていないか

個人保証の一覧は、交渉の前に作る

会社の借入金について社長が個人保証をしている場合、売却のときに保証を外すことを条件にするのが一般的です。どの借入金に、どの金融機関の、どのような保証が付いているかを一覧にしておくと、買手や金融機関との話し合いがスムーズに進みます。

チェック5:人件費と労務(5項目)

 

従業員の給与や残業代も、お金の整理に入るのですか?

 
 

はい。特に、払われていない残業代は、売却後に請求されると会社の負担になるため、買手が詳しく確認するポイントです。社会保険の加入状況や、退職金の制度も確認されます。

 
 

見えないところにある「借金」に注意が必要なんですね!

 
  • □ 残業代を、法律にそって正しく払っているか(勤務の時間の記録はあるか)
  • □ 社会保険や労働保険に、加入すべき人が加入しているか
  • □ 退職金の制度があるか、ある場合は将来いくら払う見込みか
  • □ 未消化の有給休暇の扱いを把握しているか
  • □ 従業員との間に、未解決のトラブルがないか

未払いの残業代は「簿外の債務」になる

払われていない残業代は、帳簿には載っていませんが、従業員から請求されれば会社が払わなければならないお金です。こうした「帳簿に載っていない借金」は、簿外債務と呼ばれ、買手が最も気にするものの一つです。勤務の時間の記録と給与の計算の方法を、売却の前に社会保険労務士などに確認してもらうと安心です。

チェック6:税金と申告(4項目)

  • □ 法人税・消費税・源泉所得税などを、期限どおりに申告・納付しているか
  • □ 過去の税務調査で指摘されたことと、その対応を整理しているか
  • □ 税金の滞納がないか
  • □ 社長の役員報酬や、家族への給与の決め方に問題がないか

税金の問題は、売却後に表面化しやすい

税金の申告に誤りがあると、売却後の税務調査で指摘され、追加の税金を払うことになる場合があります。最終契約では、こうした税金の負担を売手が補償する約束をすることが多いため、売却後に思わぬ負担が生じるおそれがあります。気になる点がある場合は、売却の前に顧問税理士と確認しておきましょう。

30項目のまとめ

チェックの分野項目数特に大切なこと
会社と社長のお金の区別7役員貸付金・借入金の精算、私的な経費をやめる
売上と取引先5取引先ごとの売上の割合、回収できない売掛金の整理
在庫と固定資産5棚卸し、使っていない資産の整理
借入金と保証4個人保証の一覧、借入の契約の確認
人件費と労務5未払いの残業代、社会保険の加入状況
税金と申告4申告と納付の状況、税務調査の記録

整理を進める順番

 

30項目もあると、何から手をつければいいか迷います。

 
 

まずは顧問税理士と一緒に、直近3期分の決算書を見直すところから始めましょう。そのうえで、金額の大きいもの、時間がかかるもの(役員貸付金の精算、棚卸し、残業代の確認など)から順に進めるのがおすすめです。

 
 

一人で抱えずに、専門家と一緒に進めればいいんですね!

 

整理を進める順番の一例は、次のとおりです。

  1. 決算書を見直す:顧問税理士と、直近3期分の決算書の気になる点を洗い出す
  2. 会社と社長のお金を分ける:私的な経費をやめ、役員貸付金・借入金の扱いを決める
  3. 資産を確かめる:棚卸しを行い、使っていない設備や回収できない売掛金を整理する
  4. 見えない債務を確かめる:残業代、社会保険、退職金などを確認する
  5. 一覧を作る:借入金と保証、契約書、リースなどの一覧をまとめる

よくある質問

整理には、どのくらいの期間がかかりますか?

会社の規模や状態によって異なりますが、半年から1年ほどかけて進めることが多くあります。私的な経費をやめた効果が決算書に表れるまでには、少なくとも1期分の時間が必要です。そのため、引退したい時期の2〜3年前から準備を始めると安心です。

問題が見つかったら、隠しておいたほうがいいですか?

隠すことはおすすめできません。買手の調査で見つかれば信頼を失い、売却後に見つかれば、表明保証の違反として補償を求められるおそれがあります。解決できるものは売却の前に解決し、解決が難しいものは正直に伝えたうえで、価格や条件で調整するのが基本です。

顧問税理士がM&Aに詳しくない場合は、どうすればいいですか?

日々の申告と、M&Aでの税金や会社の価値の考え方は、求められる知識が異なることがあります。顧問税理士と相談しながら、必要に応じてM&Aに詳しい税理士や、仲介会社の意見も聞いてみましょう。

整理をしても、売却価格は上がりますか?

整理そのものが価格を上げるとは限りませんが、買手の調査で価格を下げられる原因を減らすことができます。また、会社の本当の利益の力を正しく伝えられるため、納得のいく価格で交渉しやすくなります。

お金と帳簿の整理は、売却の土台づくり

会社を売る前のお金と帳簿の整理は、買手の調査で困らないための土台づくりです。会社と社長のお金の区別、在庫や売掛金の状態、借入金と保証、残業代や税金など、帳簿に表れにくいところまで確認しておくことで、交渉を落ち着いて進められます。

すべてを一度に終わらせる必要はありません。顧問税理士などの専門家と一緒に、できるところから一つずつ進めていきましょう。

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