建設業のM&Aとは?建設業許可の引き継ぎ方と、売却を成功させるためのポイント

建設業のM&Aとは?建設業許可の引き継ぎ方と、売却を成功させるためのポイント

建設業では、経営者の高齢化と後継者不足が深刻な課題になっています。技術や取引先との関係を持ちながら、後継者が見つからずに廃業を選ぶ建設会社も少なくありません。

こうした中で、建設会社を第三者に引き継ぐ方法として、M&Aを選ぶ会社が増えています。

ただし、建設業のM&Aには、ほかの業種にはない特有の注意点があります。その代表が「建設業許可」です。許可を正しく引き継げないと、売却後に工事を請け負えなくなるおそれがあるため、事前に仕組みを理解しておくことが大切です。

ここでは、建設業のM&Aの特徴と、建設業許可の引き継ぎ方、買手が評価するポイント、売却を成功させるための注意点について解説します。

建設業でM&Aが増えている背景

建設会社が手がける工事現場
 

建設業では、なぜM&Aが増えているのですか?

 
 

経営者の高齢化と後継者不足に加えて、職人や技術者の人手不足が大きな理由です。買手にとっては、M&Aによって人材や許可、取引先をまとめて手に入れられることが大きな魅力になっています。

 
 

売手と買手の両方に、M&Aを選ぶ理由があるんですね!

 

建設業でM&Aが増えている主な背景には、次のようなものがあります。

  • 経営者の高齢化と後継者不足:親族や社員に後継者が見つからない会社が多い
  • 人手不足:職人や技術者を新たに採用・育成するのが難しい
  • 許可や実績の価値:建設業許可や公共工事の実績を一から得るには時間がかかる
  • 事業の拡大:買手が新しい地域や工種に進出するための手段になる

買手にとって、人材や許可、取引先をまとめて引き継げるM&Aは、事業を広げるための近道になります。

建設業許可とM&Aの関係

建設工事が進む街並み
 

M&Aをすると、建設業許可はどうなるのですか?

 
 

株式譲渡の場合は、許可を持っている会社そのものが残るため、許可は原則としてそのまま続きます。事業譲渡などの場合は、事前に行政庁の認可を受ければ、許可を引き継ぐことができる仕組みがあります。

 
 

M&Aの方法によって、許可の扱いが変わるんですね!

 

建設業許可は、一定の要件を満たした事業者に与えられるもので、500万円以上の工事(建築一式工事は1,500万円以上など)を請け負うために必要です。[注1]

M&Aの方法によって、許可の扱いは次のように異なります。

M&Aの方法建設業許可の扱い
株式譲渡会社が許可を持ち続けるため、原則としてそのまま続く(役員などの変更の届出は必要)
事業譲渡事前に許可行政庁の認可を受ければ、譲受人が許可を引き継げる
合併・会社分割事前に許可行政庁の認可を受ければ、許可を引き継げる

事業承継の認可制度

以前は、事業譲渡や合併などで建設業を引き継ぐ場合、引き継いだ側が許可を新たに取り直す必要があり、その間は工事を請け負えない空白期間が生じることがありました。

2020年10月に施行された建設業法の改正により、事業譲渡や合併、会社分割の際に、事前に許可行政庁の認可を受ければ、許可を引き継げる制度が設けられました。[注1]

認可を受けるには、譲渡などの効力が生じる前に申請する必要があるため、スケジュールに余裕を持って準備することが大切です。

株式譲渡で注意したい許可の要件

 

株式譲渡なら、許可のことは心配しなくていいのですか?

 
 

いいえ。許可そのものは残りますが、許可を維持するための要件を満たし続ける必要があります。経営者が退任すると要件を満たせなくなることがあるため、注意が必要です。

 
 

会社が残っても、人が変わることで問題が起きることがあるんですね!

 

建設業許可を維持するには、主に次のような要件を満たし続ける必要があります。

  • 経営業務の管理を適正に行う体制:建設業の経営経験を持つ役員などがいること
  • 営業所ごとの技術者:一定の資格や実務経験を持つ技術者が、営業所ごとにいること
  • 財産的な基礎:一定の資金力があること
  • 誠実性・欠格要件に当たらないこと

経営者の退任に注意

中小の建設会社では、経営者自身が「経営業務の管理を行う役員」や「営業所の技術者」を兼ねていることがよくあります。株式譲渡のあとに経営者がすぐに退任すると、許可の要件を満たせなくなり、許可を維持できなくなるおそれがあります。

そのため、次のような対応を事前に検討しておく必要があります。

  • 経営者が一定期間、役員や技術者として会社に残る
  • 買手側から、要件を満たす人材を役員や技術者として配置する
  • 社内で、要件を満たす人材を育てておく

買手が評価するポイント

 

建設会社のM&Aでは、買手はどこを評価するのですか?

 
 

許可の種類や、技術者・職人の人数と資格、元請けや取引先との関係、公共工事の実績や評価などが主なポイントです。

 
 

人と許可と実績が、会社の価値になるんですね!

 
評価のポイント内容
建設業許可許可の種類(一般・特定)、業種の数
技術者・職人人数、保有資格、年齢構成、定着率
取引先元請けや発注者との関係、売上の偏り
工事の実績公共工事の受注実績、経営事項審査の評点
財務の状況利益の安定性、未成工事の状況、借入金
安全・品質労働災害の状況、品質管理の体制

人材の定着が特に重要

建設業のM&Aでは、技術者や職人が会社に残ってくれるかどうかが、会社の価値を大きく左右します。売却後に人材が流出しないよう、待遇や働く環境について、買手と事前に話し合っておくことが大切です。

建設業のM&Aで注意したいこと

 

建設会社を売るときに、特に気をつけることはありますか?

 
 

許可の要件を満たし続けられるかの確認、進行中の工事の扱い、労務管理の状況の確認が大切です。

 
 

建設業ならではの確認ポイントが多いですね!

 

進行中の工事の扱い

M&Aの時点で進行中の工事がある場合、その工事を誰がどのように完成させるのか、発注者への説明をどうするのかを決めておく必要があります。事業譲渡の場合は、工事の契約を引き継ぐために、発注者の同意が必要になることもあります。

労務管理の確認

建設業では、長時間労働や残業代の未払い、社会保険の加入状況などが、デューデリジェンス(買収監査)で問題になることがあります。売却を考え始めたら、労務管理の状況を専門家に確認してもらいましょう。

下請けや協力会社との関係

長年付き合いのある下請けや協力会社との関係も、会社の大切な財産です。売却後も関係が続くよう、引き継ぎの際に買手と一緒にあいさつに回るなどの配慮が大切です。

建設業のM&Aを進める流れ

建設業のM&Aは、一般的に次のような流れで進みます。

  1. 仲介会社などに相談し、会社の価値や売却の見込みを確認する
  2. 許可の種類や要件、技術者の状況を整理する
  3. 買手候補を探し、トップ面談や条件の交渉を行う
  4. デューデリジェンスで、財務・労務・許可などの状況を確認してもらう
  5. 最終契約を結ぶ(事業譲渡などの場合は、許可の承継の認可を事前に申請する)
  6. クロージングと引き継ぎを行い、必要な届出を行う

許可の手続きは、行政書士などの専門家に相談しながら進めると安心です。

売却前に準備しておきたい書類

 

売却を考え始めたら、どんな書類をそろえておけばいいですか?

 
 

決算書などの財務の書類に加えて、建設業許可や経営事項審査に関する書類、技術者の資格の一覧、工事の契約書などをそろえておくと、話がスムーズに進みます。

 
 

建設業ならではの書類も多いんですね!

 
書類の種類主な内容
財務の書類直近3期分の決算書、税務申告書、借入金の一覧
許可の書類建設業許可の通知書、変更届や決算変更届の控え
経営事項審査経営事項審査の結果通知書
人材の書類技術者・職人の一覧、保有資格、雇用契約書
工事の書類進行中の工事の契約書、工事台帳、主な取引先の一覧
労務・安全の書類就業規則、賃金台帳、社会保険の加入状況、労働災害の記録

特に、毎年の決算変更届を出し忘れていると、許可の更新や手続きで問題になることがあります。提出の状況を確認しておきましょう。

建設会社の売却価格の考え方

建設会社の売却価格は、会社の純資産に、将来生み出す利益の数年分を「のれん」として加えて考える方法がよく使われます。

建設業では、次のような点が価格に影響しやすくなります。

  • プラスに働きやすい点:特定建設業の許可、多くの業種の許可、資格を持つ若い技術者、安定した元請けとの取引、高い経営事項審査の評点
  • マイナスに働きやすい点:特定の取引先への売上の偏り、技術者の高齢化、未払いの残業代などの簿外の負債、工事の利益の不安定さ

価格の目安を知るためにも、まずは仲介会社に相談して、自社の強みと課題を整理してもらいましょう。

建設業のM&Aでよくある質問

 

建設業のM&Aについて、ほかにも気になることがあります。

 
 

「小さな工務店でも売れるのか」「経営事項審査の評点は引き継がれるのか」といったご質問をよくいただきます。

 
 

どちらも、ぜひ知っておきたいです!

 

小さな工務店や専門工事業者でも売れますか?

はい。規模が小さくても、許可や技術者、地域での取引先との関係などに価値を感じる買手はいます。特に、人手不足に悩む同業者や、新しい地域に進出したい会社にとっては、魅力的な買収先になることがあります。

経営事項審査の評点は引き継がれますか?

株式譲渡の場合は、会社そのものが残るため、これまでの実績や評点をもとに審査を受け続けることができます。事業譲渡や合併の場合の扱いは、手続きの内容によって異なるため、行政書士や許可行政庁に事前に確認しましょう。

建設業のM&Aは、許可と人材の引き継ぎがカギ

建設業のM&Aでは、建設業許可を正しく引き継げるかどうかが大きなポイントです。株式譲渡の場合は許可がそのまま続きますが、経営者の退任によって要件を満たせなくなることがあるため注意が必要です。事業譲渡などの場合は、事前の認可を受けることで許可を引き継ぐことができます。

技術者や職人の定着、進行中の工事の扱い、労務管理の状況なども含めて、早めに準備を進めることが、売却を成功させるポイントです。

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[注1] 国土交通省:建設業法