廃業とM&Aの違いとは?後継者がいない会社が知っておきたい費用・手続き・選び方

「後継者がいないので、自分の代で会社をたたむしかない」
そう考えている経営者様は少なくありません。子どもが別の仕事に就いている、社内に会社を任せられる人がいないといった理由から、廃業を選ぶ会社は毎年数多くあります。
しかし、廃業には思っている以上に費用や手間がかかり、従業員の雇用や取引先との関係も失われてしまいます。黒字のまま廃業する会社も少なくないとされ、本来は残せたはずの会社がなくなってしまうケースもあります。
後継者がいない場合の選択肢は、廃業だけではありません。M&Aによって、会社を第三者に引き継ぐという方法もあります。
ここでは、廃業とM&Aの違いを比較しながら、廃業にかかる費用や手続き、M&Aを選ぶメリット、どちらにするか決めるときのポイントについて解説します。
廃業とは?

「廃業」とは、具体的にどういうことですか?
経営者が自分の意思で事業をやめ、会社をたたむことです。会社の場合は、株主総会で解散を決め、財産の整理をしたうえで、会社そのものを消滅させる手続きを行います。
倒産とは違って、自分で決めてやめるということなんですね!
廃業は、経営者が自らの判断で事業をやめることをいいます。借金が返せなくなって事業を続けられなくなる「倒産」とは異なり、会社に資産が残っている状態でも選ばれます。
会社を廃業する場合は、一般的に「解散」と「清算」という手続きを行います。
- 解散:株主総会で会社の解散を決議し、解散の登記を行う
- 清算:会社の財産を現金に換え、借入金などの債務を返済し、残った財産を株主に分配する
- 清算結了:清算が終わったことを株主総会で承認し、清算結了の登記を行う
清算の途中では、会社の債権者に対して、一定期間(2か月以上)内に債権を申し出るよう知らせる手続きも必要です。[注1]
そのため、廃業を決めてから会社が完全になくなるまでには、少なくとも数か月の期間がかかります。
廃業にかかる費用と負担

会社をたたむだけなら、それほどお金はかからないのでは?
いいえ。登記の費用だけでなく、設備の処分や事務所の原状回復、従業員への対応など、さまざまな費用がかかります。在庫や設備を売っても、帳簿の価格より安くなることが多い点にも注意が必要です。
会社をやめるのにも、お金がかかるんですね!
廃業にかかる主な費用や負担には、次のようなものがあります。
| 費用・負担 | 内容 |
|---|---|
| 登記・手続きの費用 | 解散・清算結了の登記、官報への公告、専門家への報酬など |
| 設備・在庫の処分 | 機械や在庫の売却・廃棄にかかる費用。売っても帳簿の価格より安くなりやすい |
| 事務所・工場の原状回復 | 借りている建物を元の状態に戻す工事の費用 |
| 従業員への対応 | 解雇の予告や退職金の支払いなど |
| 借入金の返済 | 会社の財産で返しきれない場合、経営者の個人保証により個人で返済することも |
| 税金 | 清算の過程で生じる利益や、株主への分配にかかる税金 |
特に注意したいのが、資産の価値です。帳簿の上では価値があるように見える設備や在庫も、廃業のために急いで売ると、思った金額では売れないことがほとんどです。
その結果、資産を売っても借入金を返しきれず、経営者が個人保証によって自分のお金で返済しなければならないこともあります。
M&A(第三者承継)とは?
後継者がいなくても、M&Aなら会社を残せるのですか?
はい。M&Aは、親族や社員ではなく、社外の会社や個人に会社を引き継ぐ方法です。会社そのものや事業が残るため、従業員の雇用や取引先との関係も続けられます。
会社をなくさずに引退できる方法があるんですね!
M&Aは、株式譲渡や事業譲渡などによって、会社や事業を第三者に引き継ぐ方法です。後継者がいない会社の事業承継の方法として「第三者承継」とも呼ばれ、近年選ばれる会社が増えています。
株式譲渡の場合は、経営者が持っている株式を買手に売ることで、会社をまるごと引き継いでもらいます。経営者は、売却代金を受け取ったうえで引退することができます。
廃業とM&Aの違いを比較
廃業とM&Aでは、具体的にどのような違いがありますか?
経営者の手元に残るお金、従業員や取引先への影響、技術やノウハウが残るかどうかが大きな違いです。表にまとめました。
並べて比べると、違いがよく分かりますね!
| 比較項目 | 廃業 | M&A |
|---|---|---|
| 会社・事業 | なくなる | 残る |
| 従業員 | 雇用が失われる | 原則として雇用が続く |
| 取引先 | 取引が終わる | 取引を続けられる |
| 技術・ノウハウ | 失われる | 引き継がれる |
| 経営者の手元に残るお金 | 資産を整理して残った分のみ | 売却代金を受け取れる |
| 個人保証 | 返済しきれない分は個人で負担することも | 買手が引き継ぐなどで外れる場合がある |
| かかる期間 | 数か月〜 | 相手探しから成約まで半年〜1年程度 |
| 主な費用 | 処分・原状回復・登記など | 仲介会社への手数料など |
経営者の手元に残るお金
廃業の場合、経営者の手元に残るのは、資産を売って債務を返したあとに残った財産だけです。資産は安く売れやすいため、思ったほど手元に残らないことが多くあります。
M&Aの場合は、会社の資産に加えて、これまで培ってきた技術や取引先との関係などの価値も評価されるため、廃業より多くのお金が手元に残る可能性があります。
従業員と取引先への影響
廃業すると、従業員は職を失い、取引先は仕入れ先や外注先を新たに探さなければなりません。地域の雇用や、取引先の事業に影響を与えることもあります。
M&Aであれば、従業員の雇用や取引先との関係を引き継いでもらえるため、関係者への影響を小さくおさえることができます。
技術や取引先との関係が残るかどうか
長年かけて築いた技術やノウハウ、取引先との信頼関係は、決算書には表れにくいものの、会社の大切な財産です。
廃業すると、これらは会社とともに失われてしまいます。熟練の職人が持つ技術や、地域で長く続いてきたお店ののれんなどは、一度なくなると取り戻すことができません。
M&Aであれば、こうした目に見えない財産も、買手のもとで生かし続けてもらうことができます。創業者や先代から受け継いできたものを次の世代に残せることは、売却代金とは別の、大きな意味があるといえるでしょう。
経営者自身の引退後の生活
廃業の場合、借入金の返済などで手元のお金が少なくなり、引退後の生活資金に不安が残ることもあります。
M&Aで売却代金を受け取れれば、引退後の生活資金にあてたり、新しいことに挑戦したりする余裕が生まれます。
廃業かM&Aかを決めるときのポイント
自分の会社は、廃業とM&Aのどちらを選ぶべきでしょうか?
まずは、自社にどのくらいの価値があり、買手が見つかる可能性があるかを確かめることから始めましょう。廃業を決めるのは、M&Aの可能性を確かめてからでも遅くありません。
最初から廃業と決めつけずに、調べてみることが大切なんですね!
赤字や小さな会社でも、まずは相談してみる
「うちのような小さな会社を買う人はいない」と考える経営者様も多いですが、規模が小さくても、独自の技術や許認可、優良な取引先、立地などに価値を感じる買手はいます。
赤字であっても、買手が持つ販路やノウハウと組み合わせることで、利益を出せる可能性がある会社もあります。
判断の期限を決めておく
M&Aは、相手探しから成約まで半年〜1年ほどかかるのが一般的です。体調や年齢を考えて「いつまでに引退したいか」を決め、そこから逆算して、M&Aの相談を始める時期を考えましょう。
一定期間、M&Aで買手を探しても見つからなかった場合に、廃業を検討するという順番がおすすめです。
業績が良いうちに動く
業績が落ちてからでは、会社の評価が下がり、M&Aの選択肢も狭くなります。経営者の体調が悪くなってから慌てて動くと、廃業しか選べなくなることもあります。
「まだ大丈夫」と思えるうちに、専門家に自社の価値を確認しておくことが大切です。
廃業とM&Aでよくある質問
廃業とM&Aについて、ほかにも気になることがあります。
「M&Aを相談したら、廃業はできなくなるのか」「個人事業でもM&Aはできるのか」といったご質問をよくいただきます。
どちらも知りたかったことです!
M&Aを相談したら、廃業を選べなくなりますか?
いいえ。M&Aの相談や簡易的な査定をしたからといって、売却が決まるわけではありません。
M&Aの可能性を確かめたうえで、条件の合う買手が見つからなければ、廃業を選ぶこともできます。両方の選択肢を比べてから決めることで、後悔のない判断につながります。
個人事業でもM&Aはできますか?
はい。個人事業の場合は株式がないため、事業譲渡の形で、設備や取引先、ノウハウなどを引き継いでもらうのが一般的です。
飲食店や美容室、小売店などの小さな事業でも、引き継ぎを希望する人や会社が見つかるケースがあります。
従業員には、いつ伝えればいいですか?
廃業でもM&Aでも、方針がまだ固まっていない段階で従業員に伝えると、不安から退職者が出たり、取引先に話が広がったりするおそれがあります。
M&Aの場合は、最終契約を結んだあと、買手と相談しながら伝える時期と方法を決めるのが一般的です。廃業の場合も、解雇の予告や再就職の支援などを考え、余裕を持って伝えられるよう計画を立てましょう。
廃業を決める前に、M&Aの可能性を確かめよう
後継者がいない会社の選択肢には、廃業とM&Aがあります。廃業は会社をたたむ方法で、処分や原状回復などの費用がかかり、従業員の雇用や取引先との関係も失われます。
一方、M&Aは会社や事業を第三者に引き継ぐ方法で、従業員の雇用や技術を残しながら、経営者は売却代金を受け取って引退することができます。
廃業を決めるのは、M&Aの可能性を確かめてからでも遅くありません。業績が良いうちに、専門家に自社の価値を確認しておくことが大切です。
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[注1] e-Gov法令検索:会社法