会社売却・M&Aのよくある10の誤解|「大企業だけ」「社員が辞める」は本当か?事実を整理

会社売却・M&Aのよくある10の誤解|「大企業だけ」「社員が辞める」は本当か?事実を整理

「会社を売るなんて、自分には関係のない話だ」「売ったら、従業員に迷惑がかかるのではないか」。会社の売却やM&Aについて、このような思いを持っている経営者の方は少なくありません。

M&Aという言葉は、ニュースで大企業の買収が報じられることが多いため、「大きな会社が行う特別なもの」というイメージが先行しがちです。しかし、後継者がいない、将来の市場が不安、事業を続ける体力が心もとないといった悩みを抱える中小企業の間でも、会社や事業を引き継ぐ手段として、M&Aは身近な選択肢になっています。

一方で、M&Aに対する思い込みや誤解が原因で、相談が遅れたり、準備が不十分なまま進めてしまったりして、せっかくの機会を逃してしまうこともあります。反対に、「簡単に売れる」「すぐに引退できる」といった楽観的な誤解も、あとで困る原因になります。

この記事では、会社売却を考える経営者の方が抱きやすい10の誤解を取り上げ、それぞれについて「実際はどうなのか」を整理します。売却を決めていない段階でも、考え方の整理に役立ててください。

※この記事の内容は一般的な情報です。個別の判断は、税理士や弁護士、M&Aの専門家にご相談ください。

誤解1:「M&Aは大企業がするもので、うちのような小さな会社には関係ない」

東京のビル群と空
 

従業員が数名しかいない会社です。M&Aは大企業の話で、うちのような規模では売れないのではないでしょうか?

 
 

規模が小さくても、売却できる可能性はあります。買手が見ているのは会社の大きさだけではなく、お客様や取引先、技術やノウハウ、許認可、立地、従業員といった「引き継ぎたい価値」があるかどうかです。小規模な会社を対象にした仲介会社や、公的な相談窓口も整備されています。

 
 

小さな会社でも、価値があれば引き継ぎたい人がいるんですね!

 

後継者のいない中小企業が増えるなか、国も事業承継の手段としてM&Aを後押ししています。中小企業庁は、中小企業がM&Aを進める際の基本的な考え方や、仲介会社への注意点をまとめた「中小M&Aガイドライン」[注1]を公表していて、小規模な会社でも安心してM&Aを検討できる環境づくりが進んでいます。

また、各都道府県には、事業承継の相談を受け付ける公的な窓口もあります。まずは「うちの会社に価値があるのか」を知るために、相談してみることが第一歩です。

誤解2:「会社を売ったら、従業員はみんな解雇される」

夕暮れの東京の街並み
 

会社を売ったら、従業員は全員、解雇されてしまうのではないでしょうか?

 
 

多くの場合、そうはなりません。買手は、事業を続けるために、従業員の力を必要としています。株式譲渡であれば、会社そのものは変わらないため、従業員の雇用契約も原則としてそのまま続きます。ただし、売却後の待遇の条件は、買手との話し合いで決まります。

 
 

従業員の雇用は、売却の条件として話し合えるんですね。

 

売却の方法によって、従業員の扱いは変わります。

売却の方法従業員の扱い
株式譲渡会社の経営者(株主)が変わるだけで、雇用契約は原則そのまま続く
事業譲渡従業員の雇用を買手に移すには、個別の同意が必要[注2]
会社分割労働契約が承継される仕組みがあるが、事前の通知や説明の手続きが必要

事業譲渡の場合は、従業員が買手の会社に移るには、従業員一人ひとりの同意が必要になります。そのため、売却を進める際には、従業員への伝え方やタイミングが重要になります。

従業員の待遇は、売却を成立させるうえでの重要な条件の一つです。「雇用を維持してほしい」「給与や勤務地を大きく変えないでほしい」といった希望は、遠慮せずに、仲介会社を通じて買手に伝えましょう。

誤解3:「赤字の会社は、売れるはずがない」

 

ここ数年は赤字が続いています。こんな会社に、買手がつくでしょうか?

 
 

赤字でも、売却できる例はあります。買手が評価するのは、決算書の利益だけではありません。安定したお客様、技術、人材、店舗や設備、許認可など、買手の事業と組み合わせることで、価値を生み出せるものがあるかどうかを見ています。

 
 

赤字でも、あきらめなくていいんですね!

 

ただし、赤字の会社は、黒字の会社に比べると、売却の価格や条件が厳しくなる傾向があります。赤字の理由が「一時的な要因」なのか「事業の構造的な問題」なのかによって、買手の見方も大きく変わります。

赤字の会社の売却では、次のような点を整理しておくと、買手に説明しやすくなります。

  • 赤字になった原因は何か(一時的なものか、続くものか)
  • 赤字を改善するための取り組みと、その結果
  • 売上の中で、安定して見込める部分はどこか
  • 経営者個人の貸付金や、不要な経費など、調整できる部分はないか

赤字だからといって、最初から売却をあきらめず、まずは専門家に会社の状況を見てもらいましょう。なお、会社の状況が悪化してからでは、選べる選択肢が少なくなります。早めの相談が大切です。

誤解4:「仲介会社に頼めば、すぐに売れる」

 

仲介会社にお願いすれば、数か月で売れると聞きました。本当でしょうか?

 
 

会社の状況や条件によりますが、相談から成約までは、半年から1年以上かかることも珍しくありません。買手を探す、候補の会社と面談する、条件を話し合う、買手が会社の内容を調べる、最終の契約を結ぶといった段階を、一つずつ進めていくためです。

 
 

思ったより時間がかかるんですね。早めに動かないと。

 

M&Aの進め方には、次のような段階があります。

段階内容の例
相談・準備売却の目的の整理、会社の状況の確認、仲介会社の選定
買手探し会社の概要を匿名でまとめた資料をもとに、買手の候補を探す
面談・基本合意経営者同士が会い、大まかな条件を確認して、基本合意を結ぶ
買収監査(デューデリジェンス)買手が、財務・法務・事業の内容を調べる
最終契約・引き渡し契約書を結び、代金の受け取りと株式などの引き渡しを行う

特に、買手が見つかるまでの期間は、会社の業種や規模、希望の条件によって大きく変わります。条件を絞りすぎると、買手が見つかりにくくなることもあります。

また、売却の準備が不十分だと、途中で時間がかかったり、条件が変わったりすることもあります。余裕をもって、早めに動き出すことが、納得のいく売却につながります。

誤解5:「売却したら、翌日から引退できる」

 

売却が終わったら、すぐに仕事を離れて、ゆっくり過ごせるのでしょうか?

 
 

多くの場合は、売却後も一定の期間、引き継ぎのために会社に関わることになります。取引先へのあいさつ、従業員への説明、業務の引き継ぎなどを、買手と相談しながら進めるためです。期間や関わり方は、契約の中で取り決めるのが一般的です。

 
 

すぐに離れるわけではないんですね。心づもりをしておかないと。

 

引き継ぎの期間は、数か月から1年程度とされる例が多いものの、会社の規模や業種、買手の状況によって異なります。経営者個人との関係が強い会社ほど、引き継ぎに時間がかかる傾向があります。

売却後の関わり方について、契約の前に確認しておきたい点は、次のとおりです。

  • 売却後に、経営者はどの立場で会社に残るのか(顧問、役員など)
  • 引き継ぎの期間と、その間の報酬はどうなるのか
  • 取引先への紹介や同行は、どの範囲まで行うのか
  • 引き継ぎが終わったあとの、経営者の関わり方はどうなるのか

売却後の生活のイメージを、家族とも話し合っておくと、気持ちの面でも落ち着いて売却を迎えられます。

誤解6:「M&Aを考えていることが、すぐに社内や取引先に知られてしまう」

 

相談したことが、従業員や取引先に知られてしまわないか心配です。

 
 

M&Aの手続きでは、情報の管理が重視されます。買手の候補に会社の情報を出す前に、秘密保持契約を結ぶのが一般的です。また、最初の段階では、会社名を伏せた資料を使って買手を探すため、社名がいきなり知られることは通常ありません。

 
 

社名を伏せて進められるのは安心です!

 

M&Aの手続きで、情報を守るために使われる主な仕組みは、次のとおりです。

仕組み内容
秘密保持契約買手の候補が、会社の情報を目的以外に使わない、外部に漏らさないことを約束する
ノンネームシート会社名を伏せて、業種・地域・規模などの概要だけを示した資料
開示の段階分け面談や基本合意の段階に応じて、開示する情報の範囲を広げていく

ただし、情報が漏れる可能性が完全にゼロになるわけではありません。社内で情報を共有する人を、必要な範囲に限ることや、従業員や取引先へ伝えるタイミングを、あらかじめ計画しておくことが大切です。

誤解7:「仲介会社の手数料は、成約したときだけかかる」

 

仲介会社の費用は、成約したときだけと聞きました。売れなければ、費用はかからないのでしょうか?

 
 

成約したときだけ報酬を受け取る「完全成功報酬」をうたう会社もありますが、すべてではありません。相談料、着手金、月額の報酬、中間金、成功報酬などが、会社ごとに異なる形で設定されています。契約の前に、何にいくらかかるのかを書面で確認することが大切です。

 
 

会社によって違うんですね。契約前に確認しなくては!

 

仲介会社の報酬の仕組みは、会社ごとに異なります。比べるときは、次のような項目を確認しましょう。

項目確認のポイント
相談料無料か、有料か
着手金契約の時点で支払う費用があるか、返金されるか
月額報酬契約期間中、毎月かかる費用があるか
中間金基本合意などの段階で支払う費用があるか
成功報酬計算の方法(取引金額か移動する資産か)と、最低報酬額
契約の期間・解約途中で解約できるか、解約後の扱いはどうなるか

特に、成功報酬の計算のもとになる金額が、会社によって違う点には注意が必要です。同じ条件で売却しても、報酬の総額に大きな差が出ることがあります。複数の会社から見積もりを取って、同じ条件で比べることをおすすめします。

誤解8:「売却代金は、全額が手元に残る」

 

会社を1億円で売れたら、1億円がそのまま手元に残るのでしょうか?

 
 

全額が残るわけではありません。個人の株主が株式を売った場合は、売却益に対して税金がかかります。また、仲介会社への報酬や、専門家への費用もかかります。借入金の返済を、売却代金から行う場合もあります。手取りの金額は、事前に試算しておくことが大切です。

 
 

手取りで考えておかないと、予定が狂ってしまいますね。

 

個人の株主が株式を譲渡した場合、売却益には、原則として、所得税・復興特別所得税・住民税をあわせて約20.315%の税率で課税されます[注3]。売却益とは、売却代金から、株式を取得したときの費用や、売却にかかった費用を差し引いた金額です。

たとえば、売却代金が1億円で、取得費と売却の費用の合計が1,000万円の場合の、おおまかな計算の例は次のとおりです。

項目金額
売却代金1億円
取得費・売却にかかった費用(仮定)1,000万円
売却益9,000万円
税金(約20.315%)約1,828万円

この例では、税金だけで約1,800万円になります。ここから、仲介会社への報酬などが引かれることになるため、手元に残る金額は、売却代金よりかなり少なくなります。

なお、事業譲渡の場合は、売り主が会社となるため、税金の考え方が異なります。個別の状況によって変わるので、税理士に試算してもらいましょう。

誤解9:「売却すれば、個人保証や担保は自動的に外れる」

 

会社の借入に個人保証をしています。会社を売れば、自然に外れるのでしょうか?

 
 

自動的には外れません。個人保証は、金融機関と結んでいる契約なので、外すには、金融機関の同意が必要です。M&Aでは、買手が借入を引き継いだり、売却代金で返済したりして、保証を外すことを、契約の条件として話し合うのが一般的です。

 
 

保証の話は、契約の前にしっかり決めておくんですね。

 

個人保証や担保が残ったままだと、売却後も、経営者が責任を負い続けることになりかねません。売却の話を進める際には、次の点を確認しておきましょう。

  • どの借入に、誰の保証が付いているか(配偶者や家族の保証も含めて確認する)
  • 自宅や個人名義の資産が、担保に入っていないか
  • 買手が、保証や担保を引き継ぐ、または外すことに応じるか
  • 金融機関への相談は、いつ、誰が行うのか

最終契約までに、保証や担保の扱いを書面で確認しておくことが、売却後の不安を減らすことにつながります。

誤解10:「相談する仲介会社は、1社に決めて任せるのが一番安心」

 

仲介会社は、1社に絞って任せたほうが安心ではないでしょうか? いくつも話を聞くのは、失礼な気がして…

 
 

複数の会社に相談して、比べることは、まったく失礼ではありません。仲介会社によって、得意な業種や規模、報酬の仕組み、支援の進め方が違います。話を聞いて比べることで、自分の会社に合う担当者に出会える可能性が高まります。

 
 

比べてから決めても、いいんですね!

 

仲介会社を選ぶときに、比べておきたい点は、次のとおりです。

比べる点内容の例
得意な業種・規模自分の会社と似た会社の実績があるか
報酬の仕組み着手金、月額報酬、成功報酬の計算方法
担当者との相性質問に丁寧に答えてくれるか、無理に契約を迫らないか
買手の探し方自社のネットワークか、データベースか、どのくらいの数に当たるか
契約の条件専任の契約か、期間や解約の条件はどうか

特に、仲介会社に専任で依頼する契約を結ぶと、契約の期間中は、ほかの会社に依頼できなくなる場合があります。契約を結ぶ前に、複数の会社の説明を聞いて、納得したうえで決めることが大切です。

10の誤解のまとめ

ここまで取り上げた10の誤解を、実際の内容とあわせて整理します。

誤解実際
M&Aは大企業だけのもの小規模な会社でも、価値があれば引き継ぎたい買手がいる
売れば従業員は解雇される売却の方法と条件による。雇用の維持は条件として話し合える
赤字の会社は売れない売れる例はあるが、条件は厳しくなりやすい。早めの相談が大切
すぐに売れる半年から1年以上かかることも多い
売却後すぐ引退できる一定期間、引き継ぎのために関わることが多い
すぐに秘密が漏れる秘密保持契約や社名を伏せた資料で、情報は管理される
手数料は成約時だけ着手金や月額報酬などがかかる会社もあるので確認が必要
売却代金が全額残る税金や報酬があり、手取りは少なくなる
個人保証は自動で外れる金融機関の同意が必要。契約の条件として話し合う
仲介会社は1社に任せる複数に相談して、比べることが大切

誤解を解いて、納得のいく会社売却へ

会社の売却は、経営者にとって、人生で何度も経験することのない大きな決断です。だからこそ、思い込みや誤解のままで判断してしまうと、後悔につながることがあります。反対に、正しい情報を集めて、早めに準備を始めれば、選べる道は広がります。

まずは、「自分の会社は、どのくらいの価値があるのか」「どのような買手が考えられるのか」を知ることから始めましょう。売却を決めていない段階でも、仲介会社や専門家に相談して、話を聞いてみることは可能です。複数の会社に相談して、条件や進め方を比べることで、自分の考えも整理されていきます。

「M&A一括見積の窓口」では、会社の売却や事業承継を検討している経営者様向けに、M&A仲介会社の一括見積もりサービスを提供しています。

「いくつもの仲介会社を、条件で比べてから決めたい」とお考えの方は、ぜひM&A一括見積の窓口にご相談ください。

[注1] 中小企業庁:中小M&Aガイドライン

[注2] 民法第625条(使用者の権利の譲渡の制限)。労働者の承諾を得なければ、使用者は労働契約上の権利を第三者に譲り渡せないとされている

[注3] 国税庁:株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)に関するタックスアンサー