フィットネスジム・スポーツクラブのM&A|売却を考える経営者の3つの事例と、会員・設備・賃貸借の確認ポイント

フィットネスジム・スポーツクラブのM&A|売却を考える経営者の3つの事例と、会員・設備・賃貸借の確認ポイント

健康志向の高まりを背景に、パーソナルジムや24時間営業の小型ジム、地域に根づいたスポーツクラブなど、フィットネスの事業を営む会社が増えてきました。一方で、開業から年数がたち、経営者の体力や気力に変化が出てきたり、設備の老朽化や競合の増加が気になったりして、「このまま続けるか、誰かに引き継ぐか」を考え始める経営者の方もいます。

フィットネスジムやスポーツクラブは、会員との継続的な契約、毎月の会費、トレーニングマシンやスタジオの設備、賃借している物件、トレーナーやインストラクターなど、一般の小売店や飲食店とは違う確認点がいくつもある業種です。

この記事では、よくある相談をもとにした3つの事例を通して、ジムやスポーツクラブの売却を考えるときの準備や注意点を解説します。

※この記事の事例は、よくある相談をもとにした例で、特定の会社や個人を指すものではありません。

ジム・スポーツクラブの会社が、買手から見られるポイント

バーベルを使ったトレーニング
 

ジムやスポーツクラブの会社は、買手からどのような点を見られるのでしょうか?

 
 

大きく分けると、「会員とその収益の安定性」「設備と物件」「人材」の3つです。毎月の会費収入が安定していて、退会が少なく、設備の状態が良く、トレーナーが続けて働いてくれる体制があるほど、評価されやすくなります。

 
 

会員さんの数だけでなく、安定しているかどうかが大切なんですね!

 

買手が確認する主な項目を、表にまとめました。

確認する項目見られる内容の例
会員数と推移現在の会員数、入会と退会の件数、年間の増減
収益の構造月会費、入会金、回数券、物販、パーソナル指導などの内訳
会費の前受け年会費や回数券など、先に受け取っていて、まだサービスを提供していない分
設備マシンの台数・年数、リースか自社所有か、更新の予定
物件賃貸借契約の期間、賃料、保証金、原状回復の条件
人材トレーナーやスタッフの人数、勤続年数、雇用か業務委託か
立地・競合周辺の人口、近隣の競合、駅や住宅地からの距離
安全管理・保険施設の点検、事故の記録、賠償責任の保険の加入状況

それでは、3つの事例を順に見ていきましょう。

事例1:トレーナー本人の人気で成り立つ、パーソナルジム

トレーナーが利用者を指導する様子

相談の内容

Aさん(50代)は、10年ほど前に、駅近くの小さなビルの一室で、パーソナルジムを開業しました。会員は約60人。指導はAさんと、2人のトレーナーで行っています。長年、Aさん自身が会員の食事や体づくりの相談に乗ってきたため、「Aさんだから通っている」という会員も多くいます。

体力の面で、今のようなペースで指導を続けるのは難しくなってきたため、会社の売却を考え始めました。

 

私の指導を目当てに通っている会員が多いのですが、私が抜けたら、会員は辞めてしまいますか?

 
 

可能性はあります。パーソナルジムは、経営者やトレーナー個人との関係が強いため、買手は「経営者が抜けたあとも、会員が残るか」を特に気にします。売却の前から、トレーナーの担当を少しずつ分けたり、指導の方法を記録に残したりして、会社全体で会員を支える体制をつくることが大切です。

 
 

社長個人に頼らない仕組みづくりが、評価につながるんですね。

 

準備のポイント

Aさんは、売却に向けて、次のような準備を始めました。

  • 会員ごとの担当をトレーナー間で見直し、Aさん以外のトレーナーが指導する機会を増やす
  • 指導の内容、食事のアドバイスの方針、記録の付け方を、マニュアルにまとめる
  • 会員の入会・退会の記録を、月ごとに表にして、推移がわかるようにする
  • 会員との契約書の内容(料金、解約の条件、返金の扱い)を、あらためて確認する
  • 2人のトレーナーが、売却後も働き続けてくれるかを確認する(話すタイミングは、仲介会社と相談する)

特に、パーソナルジムでは、トレーナーが独立して同じ地域で別のジムを開く心配もあります。売却の契約では、経営者に対する競業の制限(一定期間は同じ地域で同じ事業をしない)を求められることがあるため、内容を確認しておく必要があります。

この事例の結果と学び

Aさんは、半年ほどかけて準備を進め、同じ地域で複数のジムを経営する会社と、売却の条件を話し合いました。売却後も、一定の期間は、Aさんが顧問として会員のあいさつや引き継ぎに関わることを条件に加えました。

この事例からわかるのは、「人気の経営者がいる」ことは強みである一方、引き継ぎの設計が必要なリスクでもあるという点です。

事例2:会員数の多い、地域のスポーツクラブ

相談の内容

Bさん(60代)は、地方都市で、プールとスタジオ、トレーニングルームを備えた、地域のスポーツクラブを営んでいます。会員は約900人で、子どものスクール、シニア向けの教室、一般会員など、幅広い層が通っています。

開業から約25年がたち、設備の老朽化が進んでいます。大きな改修には数千万円規模の費用がかかる見込みですが、子どもが事業を継ぐ意思はなく、改修の投資を経営者が負担するのは難しいと考えて、売却の相談を始めました。

 

設備が古くなっているのですが、そのままでも売れますか? 改修してから売ったほうがいいのでしょうか?

 
 

改修してから売るかどうかは、費用と効果を比べて判断する必要があります。設備が古い場合は、買手が、改修にかかる費用を見込んで、価格や条件を検討するのが一般的です。改修の費用や時期の見通しを、見積書などで整理しておくと、買手に説明しやすくなります。

 
 

古いことを隠さず、見通しを示すほうがいいんですね!

 

確認したいポイント

規模の大きいスポーツクラブでは、確認する項目も多くなります。Bさんの場合は、次の点を整理しました。

① 会員の会費の前受け分

年会費や回数券、スクールの月謝などを先に受け取っている場合は、「まだサービスを提供していない分」が発生しています。売却後は、買手がその分のサービスを提供する責任を引き継ぐことになるため、金額を正確に把握して、価格の計算や契約の中でどう扱うかを決める必要があります。

② 会員との契約の引き継ぎ

株式譲渡で売却する場合は、会社そのものは変わらないため、会員との契約は原則としてそのまま続きます。事業譲渡で売却する場合は、会員との契約を、買手に移す手続きが必要になります。会員の数が多いほど、通知や同意の手続きにも手間がかかるため、売却の方法の選び方が重要になります。

③ 会員の個人情報の取り扱い

会員の氏名、連絡先、利用の記録、健康に関する情報などは、個人情報にあたります。売却の過程で、買手の候補に情報を開示するときは、どの段階で、どの範囲まで見せるのかを慎重に決める必要があります。個人情報保護法では、事業の承継に伴う個人データの提供について、一定の扱いが定められています[注1]が、情報の取り扱いの範囲や方法は、専門家に確認しましょう。

④ 施設の安全管理と保険

プールや大型のマシンがある施設では、設備の点検記録や、事故の記録、賠償責任の保険の加入状況も確認されます。過去の事故や、保健所・消防などへの届出の状況を、あらかじめ整理しておくことが大切です。

この事例の結果と学び

Bさんは、設備の更新に必要な費用を、見積書で整理したうえで、売却の相談を進めました。買手の候補としては、同じ地域でフィットネス施設を運営している会社や、スポーツ関連の事業を広げたい会社が挙がっています。

この事例からわかるのは、会員数の多い施設では、「前受け分の金額」と「設備の更新費用」を、早めに数字で整理しておくことが、買手との話し合いをスムーズにするということです。

事例3:複数店舗のうち、1店舗だけを売却する小型ジム

相談の内容

Cさん(40代)は、24時間利用できる小型ジムを、3つの駅の近くで運営しています。無人の時間帯が多く、会員は入退館のカードで利用する仕組みです。ところが、3店舗のうち1店舗は、近くに大手のジムができた影響で、会員が減り続けています。

「採算の取れている2店舗に集中したい。不採算の1店舗は、引き継いでくれる人がいれば、売却したい」と考えて、相談を始めました。

 

会社全体ではなく、1店舗だけを売ることはできますか?

 
 

できます。会社の一部の事業を売却する方法として、「事業譲渡」や「会社分割」があります。ただし、店舗の契約や設備、従業員などを、一つずつ買手に移す手続きが必要になるため、会社ごと売却する株式譲渡より、手間がかかることが多くなります。

 
 

店舗だけを売る方法もあるんですね! ただ、手続きは多そうです。

 

確認したいポイント

1店舗だけを売却する場合、Cさんは、次のような点を確認しました。

確認する項目内容
賃貸借契約貸主の承諾が得られるか。賃借人の名義を変更できるか。保証金の扱いはどうなるか
設備のリース契約リース会社の承諾が得られるか。契約を買手に引き継げるか
会員との契約会員の契約を、買手に移す手続きの方法と、会員への通知の内容
従業員・業務委託店舗の従業員が、買手に移る意思があるか(個別の同意が必要)
入退館システムなどシステムの利用契約や、会員のデータの移行方法
不要になる設備売却の対象に含めない設備の、処分や他店舗への移動の方法

特に、賃貸借契約とリース契約は、貸主やリース会社の承諾が必要で、承諾が得られなければ、売却を進められません。契約書の内容を確認し、早い段階で、相談の順番や伝え方を計画しておく必要があります。

この事例の結果と学び

Cさんは、仲介会社に相談し、まず賃貸借契約とリース契約の内容を整理しました。そのうえで、同じエリアで店舗を増やしたいと考えている会社を、買手の候補として探しました。会員が減り続けている店舗でも、立地や設備を評価する買手がいる可能性はあります。ただし、価格は大きくは期待しにくいため、「撤退して閉店するより、引き継いでもらうほうが、費用や従業員への影響が小さい」という観点で比べて判断しました。

この事例からわかるのは、一部の店舗だけを売却する場合は、価格だけでなく、「閉店した場合にかかる費用や影響との比較」で判断することが大切だということです。

3つの事例の比較

事例1:パーソナルジム事例2:地域のスポーツクラブ事例3:小型ジムの1店舗
特徴経営者個人の人気に頼る会員数が多く、設備が大きい複数店舗のうち不採算の1店舗
主な課題経営者への依存、競業前受け分、設備の老朽化賃貸借・リースの承諾
準備のポイント担当の分散、マニュアル化数字の整理、更新費用の見積もり契約の確認、閉店との比較
売却の方法株式譲渡が多い株式譲渡が多い事業譲渡・会社分割

売却を考えたときの準備リスト

ジムやスポーツクラブの会社の売却を考え始めたら、次の準備を進めておくと、相談がスムーズになります。

準備すること内容
会員数の推移表月ごとの入会・退会・在籍の人数を、できれば過去2〜3年分そろえる
収益の内訳月会費、入会金、回数券、物販、パーソナルなどに分けて整理する
前受け分の金額年会費や回数券などの未提供分を、月末ごとに把握する
設備の一覧種類、台数、購入年、リースか自社所有か、更新の予定を一覧にする
賃貸借契約書期間、賃料、保証金、原状回復、譲渡・転貸の条件を確認する
人員の一覧雇用・業務委託の別、資格、勤続年数、給与や報酬を整理する
安全管理の記録設備の点検記録、事故の記録、保険の証券を、一か所にまとめる
会員規約・契約書解約・返金の条件、個人情報の取り扱いの表示を確認する

よくある質問

Q. 会員が減っていても、売却できますか?

会員の減少が続いている場合でも、売却できる可能性はあります。ただし、減少の理由(近くに競合ができた、設備が古くなったなど)と、改善の取り組みを、買手に説明できるようにしておくことが大切です。

Q. トレーナーが辞めてしまわないか心配です。いつ伝えればいいですか?

伝えるタイミングは、売却の進み具合によって変わります。情報が早い段階で広まると、トレーナーや会員が不安を感じるおそれもあるため、仲介会社と相談しながら、基本合意など、条件がある程度固まったタイミングで伝えるのが一般的です。トレーナーの待遇や雇用の継続については、買手との条件の話し合いの中で、しっかり確認しましょう。

Q. 買手は、どのような会社が多いですか?

同じ地域や、同じ業種で、店舗を増やしたい会社、ほかの業種からフィットネスの分野に参入したい会社、スポーツ関連のサービスを広げたい会社などが考えられます。どのような買手が見込めるかは、地域や規模によって異なるため、仲介会社に相談してみましょう。

フィットネス事業の売却は、「人・お金・契約」の整理から

フィットネスジムやスポーツクラブの売却では、会員という「人」、会費の前受け分や収益という「お金」、賃貸借やリース、会員規約という「契約」の3つを、早めに整理しておくことが大切です。

経営者個人への依存を減らす取り組みや、設備の更新の見通しの整理は、売却を決める前からでも始められます。まずは、自分の会社の状況を数字や資料にまとめ、専門家に相談してみましょう。

「M&A一括見積の窓口」では、会社の売却や事業承継を検討している経営者様向けに、M&A仲介会社の一括見積もりサービスを提供しています。

「育ててきたジムを、会員ごと安心して引き継いでほしい」とお考えの方は、ぜひM&A一括見積の窓口にご相談ください。

[注1] 個人情報保護法(個人情報の保護に関する法律)。合併その他の事由による事業の承継に伴って個人データが提供される場合は、第三者への提供には当たらないとされている。詳しくは個人情報保護委員会の資料を参照