食品製造業のM&Aとは?営業許可やHACCPの扱い、買手が評価するポイントを3つの事例で解説

食品製造業のM&Aとは?営業許可やHACCPの扱い、買手が評価するポイントを3つの事例で解説

地域のスーパーや飲食店に惣菜を卸している会社、昔ながらの漬物や和菓子をつくり続けている工場、特産品を加工して販売している会社など、食品製造業は、私たちの食卓を支える身近な業種です。

一方で、食品製造業の経営者のなかには、「後継者がいない」「原材料の価格の上昇で利益が出にくい」「設備が古くなってきたが、更新のお金を出せない」といった悩みを抱える方が少なくありません。そうした中で、会社や事業を引き継いでもらう方法として、M&Aを選ぶ経営者が増えています。

この記事では、食品製造業のM&Aで確認したい営業許可やHACCPの扱い、買手が評価するポイントを、3つの事例を通して解説します。

※この記事の事例は、よくある相談をもとにつくった例です。実在の会社や人物とは関係ありません。

食品製造業でM&Aが増えている背景

衛生管理された環境で作業する様子
 

食品をつくる会社でも、M&Aで売却できるのでしょうか?

 
 

できます。食品製造業は、新しく工場を建てて、営業の許可を取り、設備をそろえ、取引先を開拓するまでに、時間もお金もかかります。そのため、すでに製造の体制と取引先を持っている会社を引き継ぎたいと考える買手は少なくありません。

 
 

ゼロから始めるより、引き継ぐほうが早いということなんですね!

 

食品製造業でM&Aが増えている主な背景は、次のとおりです。

  • 後継者不足:家族で営んできた工場で、子どもが継がないケースが増えている
  • 原材料・エネルギー価格の上昇:仕入れの値段や光熱費が上がり、利益が出にくくなっている
  • 設備の老朽化:製造機械や冷蔵・冷凍設備の更新に、多額の費用がかかる
  • 衛生管理の求め:HACCPにもとづく衛生管理が求められ、対応に手間がかかる
  • 買手側の事情:商品の種類や製造能力、販売先を増やしたい会社が増えている

事例1:惣菜製造会社の場合(スーパーに卸すAさん)

製造ラインで食品を扱う手元

事例の概要

Aさん(66歳)は、地域のスーパー数店に、煮物やコロッケなどの惣菜を卸している会社を、30年以上経営してきました。従業員は約20名で、そのほとんどがパートの方です。子どもは別の仕事に就いており、会社を継ぐ予定はありません。

 

うちは、ほとんどの売上がスーパー数店への卸です。こんな会社でも売れるでしょうか?

 
 

売れる可能性は十分にあります。ただし、買手は「取引先が限られていること」を、リスクとして見ます。特定の取引先への売上の割合が大きい場合は、その取引先との関係が売却後も続くかどうかが、大きなポイントになります。

 
 

取引先との関係が、価値を左右するんですね!

 

買手が評価したポイントと課題

Aさんの会社では、仲介会社と話し合った結果、次のような点が整理されました。

項目評価されるポイント課題になりやすい点
製造の体制長年の経験で、品質が安定している特定の人の技術に頼っている部分がある
取引先地域のスーパーと長い付き合いがある売上の大半が数店に集中している
従業員パートの方の定着率が高い高齢の従業員が多く、人手の確保が必要
設備調理機械が整っている冷蔵設備の一部が古い

Aさんは、特定の店への依存を減らすことは難しい状況でした。そこで、取引先の担当者との関係が長く、納品の実績が安定していることを、資料で丁寧に示しました。結果として、同じ地域で惣菜を製造している会社が、製造能力を増やしたいという目的で買手になりました。

事例2:漬物製造会社の場合(創業80年のBさん)

事例の概要

Bさん(72歳)は、先代から受け継いだ漬物の製造会社を経営しています。地域の直売所や観光地の土産物店に商品を卸し、一部は通信販売もしています。後継者がおらず、Bさんが元気なうちに、味と技術を引き継いでくれる会社を探すことにしました。

 

うちの漬物は、長年守ってきた味が自慢です。売却したら、この味はどうなりますか?

 
 

味やレシピは、買手にとって大切な財産です。売却の条件として、「製造方法を引き継ぐこと」「一定の期間は経営者が技術の指導にあたること」などを、あらかじめ話し合っておくことができます。

 
 

味を守る方法も、一緒に決められるんですね!

 

技術やレシピを引き継ぐ準備

食品製造業では、味や製造の工夫が、会社の価値の中心になることがよくあります。ところが、レシピや製造の手順が、経営者や職人の頭の中にだけあるケースも少なくありません。M&Aの前に、次のような点を、できる範囲で書類にまとめておきましょう。

  • 商品ごとの配合・分量、製造の手順
  • 仕込みの時期や温度、日数などの、経験にもとづく目安
  • 原材料の仕入れ先と、品質の基準
  • 品質を確認する方法(味・見た目・においなど)
  • 商品の特徴や、お客様に選ばれている理由

また、地域で育てた原材料を使っている場合は、契約農家との関係も大切な資産です。買手に、これまでの付き合いの経緯や、今後も続けてもらいたい思いを伝えておくと、話し合いがスムーズに進みます。

事例3:和菓子製造・販売会社の場合(地域の名店のCさん)

事例の概要

Cさん(68歳)は、店舗での販売と、法人向けの贈答品の製造を行う和菓子の会社を経営しています。店舗は1店舗のみで、季節ごとの商品が地元で人気です。手づくりにこだわっており、職人は4名。そのうち2名は高齢で、数年のうちに引退を考えています。

 

職人さんが高齢で、数年後には辞めてしまうかもしれません。売却するうえで、問題になりますか?

 
 

買手は、職人の高齢化を課題として見ますが、同時に「技術をどう引き継ぐか」の計画も確認します。若手の職人を育てている、または売却後も一定期間は職人が残ってくれる、といった体制を示せると、評価されやすくなります。

 
 

技術を引き継ぐ計画が、安心材料になるんですね!

 

Cさんは、若手の職人に仕込みの工程を少しずつ任せ、その様子を記録として残していきました。また、売却後の一定期間は、高齢の職人が指導役として残ることを、買手との契約に盛り込みました。結果として、和菓子を製造・販売する別の会社が、ブランドと職人の技術を評価して、買手になりました。

営業許可やHACCPは、どう扱われる?

 

食品をつくるための営業許可は、M&Aのあとも引き継げるのでしょうか?

 
 

M&Aの方法によって扱いが変わります。株式譲渡の場合は、許可を受けている会社そのものが変わらないため、原則として、そのまま営業を続けられます。事業譲渡や会社分割の場合は、新しい経営者が許可の手続きを行う必要が出てくることがあります。

 
 

どの方法で売るかによって、手続きが変わるんですね!

 

食品をつくって販売するには、業種ごとに保健所の営業許可や届出が必要になります。許可の業種や、引き継ぎの具体的な手続きは、製造する食品の種類や自治体によって異なる場合があります。売却の方法を決める前に、管轄の保健所に事前に確認しておくことが大切です。

M&Aの方法による違い

方法営業許可の扱い(目安)確認したい点
株式譲渡会社が変わらないため、原則そのまま続く。役員などの変更があれば届出が必要な場合がある変更の届出の要否
事業譲渡事業を譲り受けた側が、承継の手続きや新たな許可の手続きを行う場合がある手続きの種類と、営業できない期間が出ないか
会社分割分割の方法によって、手続きが変わる場合がある保健所への事前の相談

HACCPにもとづく衛生管理

食品をつくる事業者には、原則として、HACCP(ハサップ)の考え方を取り入れた衛生管理が求められています。具体的には、製造の工程のなかで、衛生上の危害が起こりうる点を洗い出し、重点的に管理し、その記録を残すことです。

買手は、衛生管理計画や、日々の記録がきちんと整っているかを確認します。記録が整理されていると、「品質の管理ができている会社」として評価されやすくなります。

買手が見るポイント

 

買手は、食品製造業のどのような点を見て、評価するのでしょうか?

 
 

商品の強み、取引先の広がり、製造の設備と衛生管理、従業員の技術、原材料の仕入れ先との関係などが主なポイントです。食品は安全が第一なので、衛生管理や品質の記録を、特に丁寧に確認します。

 
 

おいしいだけでなく、安全に管理されていることも大切なんですね!

 
評価のポイント内容
商品力商品の特徴、ブランド、リピートされる理由
取引先販売先の数、業種、売上の集中度
製造設備機械の年式、能力、更新の予定
衛生管理HACCPの計画と記録、保健所の許可、検査の状況
技術・人材職人や製造責任者の技術、年齢構成、定着率
原材料仕入れ先との関係、価格の変動への対応
表示・品質食品表示の管理、クレームや事故の履歴

食品表示やクレームの履歴

食品には、原材料やアレルギー、消費期限などの表示のルールがあります。表示の管理がきちんとできているか、過去にクレームや回収の事故がなかったかも、買手が確認するポイントです。過去の経緯は、隠さずに、対応の内容とあわせて説明しましょう。誠実に説明することで、かえって信頼につながることがあります。

売却の前に準備しておきたいこと

 

売却を考え始めたら、まず何を準備すればいいですか?

 
 

決算書などの財務の資料に加えて、許可の書類、衛生管理の記録、設備の一覧、商品ごとの売上の内訳、取引先の一覧などをそろえておくと、話がスムーズに進みます。

 
 

食品ならではの書類もたくさんあるんですね!

 
準備する資料主な内容
財務の資料直近3期分の決算書、商品ごと・取引先ごとの売上と利益
許可・届出の書類営業許可証、各種の届出、保健所の検査の記録
衛生管理の記録HACCPの衛生管理計画、日々の記録、清掃・点検の記録
設備の資料製造機械・冷蔵冷凍設備の一覧、購入時期、修理の履歴
契約の書類取引先との契約書、原材料の仕入れ契約、工場の賃貸借契約
人の資料従業員の一覧、年齢構成、資格(調理師、衛生管理者など)

売却後の従業員と取引先への配慮

食品製造業は、現場の従業員の技術と、取引先との信頼関係で成り立っています。売却の話が早い段階で広まると、従業員が不安を感じて辞めてしまったり、取引先が仕入れ先を変えたりするおそれがあります。伝える時期や順番は、仲介会社と相談しながら慎重に決めましょう。

売却の条件がまとまったあとは、従業員に、売却後の雇用や待遇が守られることを丁寧に説明します。取引先には、新しい経営者と一緒にあいさつに回るなどして、商品の品質や納品の体制が変わらないことを伝えると、安心してもらいやすくなります。

食品製造業のM&Aは、許可・衛生管理・技術の引き継ぎがカギ

食品製造業のM&Aでは、営業許可の扱い、HACCPにもとづく衛生管理の記録、商品や技術の引き継ぎ、取引先との関係が大きなポイントです。事例のように、売上が特定の取引先に集中している会社でも、職人が高齢の会社でも、課題の説明と引き継ぎの計画を示すことで、買手に評価される可能性があります。

保健所などへの事前の確認と、レシピや製造の手順の書類化を含めて、早めに準備を進めることが、売却を成功させるポイントです。

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