工務店・リフォーム会社のM&Aと売却|3つの事例で見る売れ方と注意点
「職人も自分も年を取ってきた。この先、会社をどうするか」
工務店やリフォーム会社の経営者から、このような悩みを聞くことが増えています。地域で長く仕事を続けてきた会社ほど、お客様や職人との信頼関係が大きな財産であり、「簡単に手放していいのだろうか」と迷うのは自然なことです。
一方で、建築・リフォーム業界では、職人の高齢化や人手不足が続いており、事業を引き継げる相手を探すM&Aは、現実的な選択肢の一つになってきました。後継者がいなくても、会社と従業員、そしてお客様との関係を残せる可能性があります。
この記事では、工務店・リフォーム会社のM&Aについて、売却が成立する会社の特徴を3つの事例で紹介します。そのうえで、買手が見るポイントや、建設業許可、受注残、アフターサービスの扱いなど、売却前に知っておきたい注意点を解説します。なお、事例は典型的なパターンをもとにしたもので、実在の特定の会社ではありません。
工務店・リフォーム会社のM&Aが増えている背景

なぜ、工務店やリフォーム会社のM&Aが増えているのですか?
経営者や職人の高齢化で後継者が見つからない会社が多い一方、人手や許可を求める買手が増えているからです。双方の事情が合うことで、M&Aが成立しやすくなっています。
売る側だけでなく、買う側にも理由があるんですね!
建築・リフォーム業界のM&Aが増えている背景には、大きく3つの事情があります。
- 経営者や職人が高齢になり、後継者が見つからない
- 若い職人の採用が難しく、技術を持つ人材を求める会社が多い
- 建設業許可や施工実績を、一から積み上げるのは時間がかかる
売手にとっては、事業を終わらせずに従業員とお客様を守れることが利点です。買手にとっては、すでに許可や職人、地域のお客様を持っている会社を引き継ぐことで、新しい地域や分野へ早く参入できます。
3つの事例で見る、工務店・リフォーム会社の売り方

ここからは、売却が成立しやすい典型的な3つのパターンを見ていきましょう。自社に近い事例があるか、探しながら読んでみてください。
| 事例 | 会社の状況 | 売却の目的 | 買手のねらい |
|---|---|---|---|
| 事例1 | 社長70歳・後継者なしの地域密着の工務店 | 従業員とお客様を守って引退する | 新しい地域への進出 |
| 事例2 | 職人10名・社長が現場に出続けるリフォーム会社 | 職人の雇用を守りながら現場を離れる | 技術を持つ職人の確保 |
| 事例3 | 水まわり工事に強い小さなリフォーム会社 | 大きな会社の仕入れ力と集客力を使う | 事業分野の拡大 |
事例1:後継者がいない地域密着の工務店
社長は70歳。創業から40年、地元で新築と建て替え、修繕を手がけてきた工務店です。子どもは別の仕事をしており、会社を継ぐ予定はありません。従業員は大工が6名、事務が1名で、ほとんどが長年勤めている人です。
社長が一番心配していたのは、「自分がいなくなったら、お客様の家のメンテナンスはどうなるのか」ということでした。建てた家には、社長自身の名前で保証をつけています。廃業すれば、そのお客様は頼る先を失ってしまいます。
お客様の家の保証は、会社を売ったあとはどうなりますか?
株式譲渡の場合は、会社そのものが引き継がれるので、保証の責任も会社が負ったまま買手に移ります。そのため、保証の対応力がある買手かどうかも、相手選びの大切な基準になります。
お客様のことまで考えて相手を選ぶんですね!
この工務店は、隣の市で工務店を営む会社が買手になりました。買手には、新しい地域に進出したいというねらいがあり、売手にとっては、お客様のアフターサービスを引き続き任せられるという安心がありました。
売却後も、社長は1年ほど顧問として残り、お客様や協力業者へのあいさつ回りを一緒に行いました。大工6名も全員が引き続き働くことになり、会社の名前も当面そのまま使われました。
この事例のポイントは、価格だけでなく、「お客様と従業員を守れるか」を条件の一番上に置いたことです。
事例2:職人を抱えるリフォーム会社
社長は58歳。住宅リフォームの会社を営み、職人10名ほどを抱えています。社長自身が営業から見積もり、現場の段取りまで担ってきたため、「自分が現場を離れたら会社が回らない」という悩みがありました。
一方で、職人の中にも50代、60代が多く、若手がなかなか育たないことが課題でした。このまま5年、10年と続けるのは難しい、と感じるようになり、M&Aを検討し始めました。
社長が現場の中心だと、売却は難しくなりますか?
社長に仕事が集中していると、買手は「社長が辞めたらお客様が離れるのでは」と心配します。ただ、引き継ぎの期間を設けて、お客様や職人に少しずつ紹介していくことで、不安を小さくできます。
すぐにいなくなるわけではなく、段階的に任せていくんですね!
この会社は、全国で複数のリフォーム店を展開する会社に売却しました。買手は、自社で職人を採用するのが難しく、技術を持った職人を抱える会社を探していたのです。
売却にあたっては、次のような準備が役に立ちました。
- 見積書や工事の記録を整理し、社長がいなくても工事の内容が分かるようにした
- 職人ごとの得意分野と資格を一覧にして、買手に伝えた
- 営業を担当する従業員に、お客様との窓口を少しずつ任せた
社長一人に頼っていた仕事を、会社の仕組みとして見せられたことが、買手の安心につながりました。
事例3:水まわり工事に強い小さなリフォーム会社
社長は52歳、従業員は5名の小さな会社です。キッチンやお風呂、トイレなど、水まわりのリフォームを得意とし、リピートや紹介が多く、安定した売上があります。後継者の問題はまだ差し迫っていませんが、「もっと大きな会社の力を借りて、事業を伸ばしたい」と考えていました。
事業を続けたい場合でも、会社を売ることはあるのですか?
はい。大きな会社のグループに入ることで、仕入れや集客、人材採用の力を借りて、事業を伸ばしやすくなることがあります。引退のためだけでなく、成長のためのM&Aもあります。
売るのが「終わり」とは限らないんですね!
この会社は、住宅設備の施工を広げたい会社の傘下に入りました。社長は、売却後もそのまま経営を続けています。仕入れの条件が良くなり、買手の集客も使えるようになったことで、受注が増えました。
このような「成長型」のM&Aでは、社長が続けて経営に関わることが多くなります。そのため、売却後の役割や報酬、いつまで続けるかを、契約の前にしっかり話し合っておくことが大切です。
買手は工務店・リフォーム会社のどこを見るのか
3つの事例に共通しているのは、「買手にとっての魅力」がはっきりしていたことです。買手が特に見るのは、次のようなポイントです。
| 見られるポイント | 具体的に見られること |
|---|---|
| 職人・従業員 | 人数、年齢構成、資格、得意分野、定着率 |
| 許可と資格 | 建設業許可の種類、有資格者の人数 |
| 受注と売上 | 受注残、リピートや紹介の割合、売上の安定性 |
| お客様との関係 | 紹介してくれる取引先、元請や下請けの割合 |
| 利益の出方 | 工事ごとの利益、赤字工事の有無、外注費の割合 |
| アフターサービス | 過去の工事のクレーム、保証の内容と件数 |
許可と有資格者は大切な財産
建設業許可を持っていること、そして許可の要件となる有資格者がいることは、買手にとって大きな魅力です。許可は新しく取るのに時間がかかり、要件を満たす人材を集める必要があるためです。
ただし、売却の方法によって、許可の扱いが変わることがあります。株式譲渡であれば、会社そのものが引き継がれるため、許可は原則としてそのまま続きます。一方で、事業譲渡などの場合は、許可の引き継ぎについて行政庁の手続きが必要になることがあります。[注1]
また、許可の要件を満たす人(経営業務の管理を担当する人や、専任の技術者など)が売却後も在籍し続けるかどうかは、とても大切です。これらの人が退職すると、許可の要件を満たせなくなるおそれがあります。売却の進め方については、必ず事前に管轄の行政庁や専門家に確認しましょう。
受注残と赤字工事は正直に伝える
工事の途中にある案件(受注残)は、買手にとって将来の売上の目安になります。ただし、赤字になりそうな工事や、追加費用でもめている工事があれば、隠さずに伝えることが大切です。
売却のあとで赤字工事が見つかると、買手の信頼を失い、契約後のトラブルや、価格の見直しを求められる原因になります。最初に正直に伝えておくほうが、結果的に話はスムーズに進みます。
売却前に確認しておきたいこと
工務店やリフォーム会社の売却では、次のような点を前もって整理しておくと、買手との話がスムーズになります。
過去の工事の保証とクレームの整理
住宅の新築では、構造の主要な部分や雨水の浸入を防ぐ部分について、引き渡しから10年間、請負人が責任を負うことが法律で定められています。[注2] 売却したあとは、こうした責任の窓口をだれが担うのかが、お客様にとっても買手にとっても大切な問題になります。
過去の工事の保証の内容、クレームの件数と対応状況を、一覧にまとめておきましょう。「どの工事に、どんな保証がついているか」が分かれば、買手も安心して判断できます。
協力業者との関係
工務店やリフォーム会社は、電気、設備、塗装、左官など、たくさんの協力業者に支えられています。社長個人の信頼関係で成り立っている部分が多いと、社長がいなくなったときに取引が続くのか、買手は不安に感じます。
売却の話が進んだ段階で、主な協力業者に、買手を紹介する場を設けましょう。取引の条件や支払いのルールを文書で整理しておくことも大切です。
会社のお金と個人のお金を分ける
小さな会社では、社長個人の車や家族への支払いが会社の経費になっていることがあります。決算書の数字だけでは、会社の本当の利益が見えにくくなります。売却前に、会社と個人のお金を整理しておくと、買手に会社の実力を正しく見てもらえます。
売却までの流れ
工務店・リフォーム会社のM&Aは、一般的に次のような流れで進みます。
- 仲介会社などに相談し、売却の目的と条件を整理する
- 決算書、許可、従業員、受注残などの資料を準備する
- 会社名を伏せた資料で、買手の候補を探す
- 候補先と面談し、お互いの考え方を確認する
- 条件がまとまったら、基本合意を結ぶ
- 買手が会社の内容を調べる(デューデリジェンス)
- 最終契約を結び、会社を引き渡す
相談から成約までは、半年から1年ほどかかることが一般的です。工務店やリフォーム会社は、工事の進み具合に応じて動かせる時期が決まることもあるため、余裕を持って準備を始めましょう。
よくある質問
小さな会社でも売れますか?
はい。従業員が数名の会社でも、職人や許可、地域のお客様といった強みがあれば、買手が見つかることがあります。規模の大小よりも、「買手にとってどんな魅力があるか」が重要です。
一人親方に近い会社でも売却できますか?
社長一人に仕事が集中している場合は、会社を売るというより、お客様や仕事を引き継ぐ形になることがあります。引き継ぎ期間を長めにとるなど、条件の工夫が必要になることもあります。まずは相談して、自社の場合に近い形を確認してみましょう。
従業員や協力業者には、いつ伝えればよいですか?
売却を考え始めた段階では、伝えないのが一般的です。早い段階で話が広がると、不安になった職人や協力業者が離れてしまうおそれがあります。条件がまとまった段階で、買手とも相談しながら伝える時期を決めましょう。
工事の途中で売却することはできますか?
可能ですが、進行中の工事の責任や、完成までの段取りを整理しておく必要があります。工事の状況を買手にきちんと伝え、契約の中で責任の範囲を明確にしておくことが大切です。
自社の強みを知ることが、よい売却の第一歩
工務店・リフォーム会社のM&Aでは、職人、許可、お客様、地域での信頼といった、目に見えにくい強みが評価されます。後継者のいない会社はもちろん、事業を伸ばしたい会社にとっても、M&Aは選択肢の一つになります。
大切なのは、自社の強みを整理し、どんな相手に引き継ぎたいのかを考えておくことです。お客様や職人を守る視点で、納得できる相手を見つけましょう。まずは、相談先に自社の状況を話すところから始めてみてください。
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[注1] 国土交通省:建設業法(建設業の許可の承継に関する手続き)
[注2] 法務省・国土交通省:住宅の品質確保の促進等に関する法律