会社売却に必要な社内手続き|取締役会・株主総会の流れを株式譲渡と事業譲渡で時系列に解説
会社の売却を決めたあと、買手との交渉や契約書の作成に気を取られて、忘れられがちなのが「会社の中での正式な手続き」です。社長1人が「売る」と決めても、会社法で定められた手続きを踏まなければ、売却が有効に成立しなかったり、後から株主とのトラブルになったりするおそれがあります。
どのような手続きが必要になるかは、「株式譲渡」で売るのか、「事業譲渡」で売るのかによって大きく変わります。また、会社の株式の持ち方や、取締役会があるかどうかによっても違いが出ます。
この記事では、会社売却に必要な社内手続きを、株式譲渡と事業譲渡に分けて、時系列のスケジュールに沿って解説します。手続きの漏れを防ぎ、スムーズに売却を進めるための参考にしてください。
なお、実際の手続きは会社の定款の内容や状況によって異なります。具体的な進め方は、弁護士や司法書士などの専門家に確認しながら進めましょう。
まず確認したい:売却の方法で手続きが変わる

会社を売るときは、どのような社内手続きが必要ですか?
まず、売り方によって、必要な手続きが異なります。株式譲渡は、株主が持っている株式を買手に売る取引なので、会社そのものの手続きは多くありません。一方、事業譲渡は、会社が自分の事業を買手に売る取引なので、会社の重要な意思決定として、株主総会での承認が必要になることがあります。
売り方によって、手続きの重さが変わるんですね。
最初に、2つの方法の違いを表で整理します。
| 項目 | 株式譲渡 | 事業譲渡 |
|---|---|---|
| 売り手 | 株主(個人や会社) | 会社 |
| 売るもの | 会社の株式 | 会社の事業(資産・契約・従業員など) |
| 代金の受取人 | 株主 | 会社 |
| 主な社内手続き | 譲渡の承認(株式に譲渡制限がある場合)、株主名簿の書き換え | 取締役会の決議、株主総会の特別決議(必要な場合) |
| 手続きの重さ | 比較的軽い | 比較的重い |
この記事では、まず株式譲渡の手続きを、次に事業譲渡の手続きを説明し、最後に全体のスケジュールをまとめます。
株式譲渡の社内手続き

ステップ1:株主の確認と、売却への同意
株式譲渡では、まず何を確認しますか?
最初に、誰が株主なのか、それぞれが何株を持っているのかを確認します。株主名簿だけでなく、実際の保有の状況が合っているかも見ておきましょう。そのうえで、売却に参加する株主全員から、株式を売ることへの同意を得ます。
株主が多いと、全員の同意を集めるのも大変そうです。
株主が社長1人だけの会社なら、手続きは簡単です。しかし、親族や元社員、取引先などが、少しずつ株式を持っているケースも珍しくありません。全株式を買手に売りたい場合は、全ての株主から同意を得る必要があります。一部の株主が反対すると、買手が望む条件で売却できないこともあるため、早めに株主の状況を確認しましょう。
株主の確認でチェックしたい項目は、次のとおりです。
- 株主名簿の記載と、実際の保有の状況が一致しているか
- 名義だけの株主(名義株)がいないか
- 亡くなった株主の株式が、相続の手続きを終えているか
- 行方が分からない株主がいないか
- 株主間で、売却について反対や条件の意見が出ていないか
株主の状況に不安がある場合は、売却の準備の初期に、整理しておくことをおすすめします。
ステップ2:譲渡の承認の手続き
株式を売るのに、会社の承認が必要になるのですか?
多くの中小企業は、定款で「株式を譲渡するには会社の承認が必要」と定めています(譲渡制限株式)。この場合、株主が株式を売るときは、会社に承認を求める必要があります。承認の機関は、取締役会がある会社なら取締役会、取締役会がない会社なら株主総会が原則です。定款で別の定めをしている場合もあります[注1]。
定款を確認しないと、誰が承認するのか分からないんですね。
承認の手続きは、おおまかに次の流れで進みます。
- 株主が、会社に対して、譲渡の承認を請求する(相手方の名前などを明記する)
- 会社が、取締役会や株主総会で、承認するかどうかを決める
- 会社が、決定の内容を、株主に通知する
承認の請求と結果の通知には、法律で定められたルールや、期限があります。たとえば、会社が一定の期間内に通知をしなかった場合は、承認したものとみなされる決まりもあります。詳しい期限や手順は、弁護士や司法書士などの専門家に確認して進めましょう。
ステップ3:契約の締結と代金の支払い
承認を得たあとは、買手と株式譲渡契約を結び、代金の支払いと株式の引き渡しを行います。契約の内容については、別の記事で詳しく解説しています。
ステップ4:株主名簿の書き換え
株式が売却されたら、会社が株主名簿を書き換えます。買手が株主として、会社に権利を主張するためには、株主名簿の書き換えが必要です[注2]。売却の完了後は、速やかに手続きを行いましょう。
ステップ5:役員の変更など
買手が経営に参加する場合は、売却後に、役員の変更が行われることがあります。取締役や代表取締役の変更は、株主総会や取締役会で決議し、法務局に登記を申請する必要があります。登記の期限は、変更があった日から2週間以内とされています[注3]。
事業譲渡の社内手続き
ステップ1:取締役会の決議
事業譲渡では、どのような手続きから始まりますか?
取締役会がある会社では、まず取締役会で、事業譲渡を進めることを決議します。事業の売却は、会社にとって重要な財産の処分にあたるため、取締役会の決議が必要です。取締役会がない会社は、取締役の過半数で決めるのが一般的です。
会社として、きちんと意思決定をした記録が必要なんですね。
取締役会の議事録には、決議の内容と、出席した取締役の署名や押印が必要です。後から株主や買手に確認を求められたときの証拠にもなるため、丁寧に作成して保管しましょう。
ステップ2:株主総会の特別決議
事業譲渡では、株主総会も必要ですか?
事業の全部を譲渡する場合や、事業の重要な一部を譲渡する場合は、原則として株主総会の特別決議による承認が必要です。特別決議は、議決権を持つ株主の過半数が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です[注4]。
3分の2以上の賛成が必要なんですね。株主の構成を確認しておかないと!
ただし、譲渡する資産の帳簿価額が、会社の総資産の2割以下の場合は、「重要な一部」にあたらず、株主総会の決議が不要になる例外があります。どの程度なら例外にあたるのかは、会社の状況によって判断が分かれるため、事前に専門家へ確認しましょう。
株主総会の特別決議が必要な場合の注意点は、次のとおりです。
- 株主の構成を確認する:社長が3分の2以上の議決権を持っているか
- 招集の手続き:株主への招集通知の期限や方法を、定款と法律に沿って確認する
- 議事録の作成:決議の内容、出席株主、賛成の議決権数などを記録する
- 反対する株主への対応:後述する「株式買取請求」への備え
ステップ3:株主への通知と、反対株主の買取請求
事業譲渡をする会社は、効力が生じる日の20日前までに、株主に事業譲渡をすることを通知または公告する必要があります[注4]。
また、事業譲渡に反対する株主は、会社に対して、自分の持つ株式を公正な価格で買い取るよう請求できる権利(株式買取請求権)を持ちます。反対する株主がいる場合は、買取りの費用が発生するおそれがあるため、売却のスケジュールや資金計画に影響します。
ステップ4:従業員・契約・許認可の手続き
事業譲渡は、個別の資産や契約を、1つずつ買手に移す取引です。そのため、株主に関する手続きに加えて、次の手続きが必要になります。
| 対象 | 主な手続き |
|---|---|
| 従業員 | 雇用契約を買手に移すには、従業員一人ひとりの同意が必要 |
| 取引先との契約 | 契約の相手方の同意を得て、契約を買手に移す |
| 不動産・車両など | 名義の変更や登記の手続き |
| 許認可 | 事業の種類によっては、承継ができず、買手が新たに取得し直す必要がある |
許認可の扱いは、業種や制度によって大きく異なります。売却を進める前に、所管の役所へ事前に確認しましょう。
時系列で見る、会社売却のスケジュール
手続き全体を、時系列で整理するとどうなりますか?
株式譲渡と事業譲渡で、必要な手続きの順番が少し違います。目安として、基本合意を結んだ後から最終契約までの間に、社内の手続きを進めるのが一般的です。ここでは、手続きの流れを表にまとめます。
順番が分かると、準備もしやすいですね。
株式譲渡のスケジュールの例
| 時期 | 主な手続き |
|---|---|
| 売却の準備の段階 | 株主の確認、名義株や相続の整理、定款の確認 |
| 基本合意の前後 | 株主へ売却の意向を伝え、同意の見通しを確認 |
| 最終契約の前 | 譲渡の承認請求、取締役会または株主総会での承認 |
| 最終契約・クロージング | 株式譲渡契約の締結、代金の受取、株式の引き渡し |
| クロージングの後 | 株主名簿の書き換え、役員変更の登記(変更から2週間以内) |
事業譲渡のスケジュールの例
| 時期 | 主な手続き |
|---|---|
| 売却の準備の段階 | 株主構成の確認(3分の2以上の賛成が得られるか)、許認可の確認 |
| 基本合意の前後 | 取締役会で売却の方針を決議。従業員・取引先への説明の計画づくり |
| 最終契約の前 | 株主総会の招集、特別決議。反対株主への対応 |
| 効力発生日の20日前まで | 株主へ通知または公告 |
| 最終契約・クロージング | 事業譲渡契約の締結、資産と契約の引き渡し、代金の受取 |
| クロージングの後 | 登記・名義の変更、従業員の転籍、許認可の手続き |
スケジュールは、会社の規模や株主の人数によって前後します。株主が多い会社や、許認可が必要な業種では、手続きに時間がかかるため、余裕をもって計画しましょう。
手続きでよくある失敗と対策
社内の手続きで、失敗しやすいポイントはありますか?
よくあるのは、株主の状況を把握しないまま交渉を進めてしまい、最終契約の直前に反対や不明の株主が見つかるケースです。また、定款の内容を確認せず、承認機関を間違えて手続きをやり直すこともあります。早い段階で、株主と定款を確認しておきましょう。
契約の前に、足元の確認をしておくことが大切なんですね。
失敗しやすい例と対策を、次のようにまとめます。
| よくある失敗 | 対策 |
|---|---|
| 株主の全員を把握していなかった | 株主名簿と、実際の保有の状況を、売却の準備の初期に確認する |
| 亡くなった株主の相続が終わっていない | 相続人を確認し、株式の名義を整理しておく |
| 譲渡の承認機関を間違えた | 定款を確認し、取締役会か株主総会かを判断する |
| 株主総会の招集の通知が不十分 | 定款と法律に沿って、期限と方法を確認する |
| 議事録を作っていない、不備がある | 買手の調査(デューデリジェンス)で確認されるため、事前に整える |
| 反対の株主への備えがない | 買取請求を想定し、資金とスケジュールに余裕を持つ |
議事録や株主名簿の不備は、買手の調査(デューデリジェンス)で指摘されると、売却価格の交渉や、契約の条件に影響するおそれがあります。売却の準備の段階で、会社の書類をそろえておくと安心です。
よくある質問
Q1. 社長が全株式を持っている場合も、手続きは必要ですか?
社長がすべての株式を持っている場合でも、株式に譲渡制限がついている会社では、会社の承認の手続きが必要になるのが原則です。ただし、株主が社長1人だけであれば、手続きは進めやすいでしょう。議事録などの書類は、形式をきちんと整えて残しておくことが大切です。
Q2. 取締役会がない会社は、どうなりますか?
取締役会がない会社では、株式の譲渡の承認は、原則として株主総会で行います。ただし、定款で、代表取締役などが承認する旨を定めている場合もあります。まず、定款の内容を確認しましょう。
Q3. 株主が10人以上いて、同意が集まりません。どうすればよいですか?
まず、反対する株主の理由を聞き取り、売却の条件や目的を丁寧に説明することが基本です。それでも解決しない場合は、事業譲渡や会社分割など、別の方法を検討することもあります。弁護士などの専門家と、方法を相談しましょう。
Q4. 手続きにはどのくらい時間がかかりますか?
株主が少なく、手続きに問題がなければ、数週間で終わることもあります。株主が多い場合や、相続の整理が必要な場合は、数か月かかることもあります。売却全体の期間に影響するため、早めに確認しておきましょう。
Q5. 手続きは、仲介会社が代わりにやってくれますか?
仲介会社は、売却全体の進行を支援しますが、法律上の手続きや登記は、弁護士や司法書士などの専門家が担当するのが一般的です。仲介会社と専門家の役割を、契約前に確認しておきましょう。
まとめ
会社売却の社内手続きは、売却の方法によって、次のように整理できます。
- 株式譲渡:株主の確認と同意、譲渡の承認(取締役会や株主総会)、株主名簿の書き換え、役員変更の登記
- 事業譲渡:取締役会の決議、株主総会の特別決議(3分の2以上の賛成)、株主への通知、反対株主への対応、従業員・契約・許認可の手続き
どちらの場合も、早い段階で株主の状況と定款を確認することが、スムーズに売却を進める鍵になります。手続きの不備は、買手の調査で指摘されると、価格や契約の条件に影響するため、書類もあわせて整えましょう。
また、法律上の手続きは、会社ごとの事情で変わります。弁護士や司法書士などの専門家に、早めに相談しながら進めることをおすすめします。
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[注1] 法務省:会社法(第139条 譲渡制限株式の譲渡の承認)
[注2] 法務省:会社法(第130条 株式の譲渡の対抗要件)
[注3] 法務省:会社法(第915条 変更の登記)
[注4] 法務省:会社法(第467条 事業譲渡等の承認等、第469条 反対株主の株式買取請求、第309条 株主総会の決議)