電気工事会社のM&A|売却を考える経営者と仲介会社の相談で分かる、許可・資格者・取引先の引き継ぎ方
住宅やビル、工場、店舗など、電気の設備はあらゆる建物に欠かせません。その工事を担う電気工事会社は、地域の暮らしと産業を支える大切な存在です。
一方で、電気工事の業界では、経営者の高齢化と後継者不足が進んでいます。また、電気工事士などの資格を持つ職人の確保が年々難しくなっており、「会社を続けたいが、継ぐ人がいない」「職人が辞めたら仕事を受けられなくなる」と悩む経営者も少なくありません。
こうした中で、会社をM&Aで別の会社に引き継ぎ、従業員の雇用と取引先との関係を守る経営者が増えています。
この記事では、電気工事会社の売却を考えている経営者と、M&A仲介会社の担当者との相談の流れに沿って、売却の進め方と注意点を解説します。
※この記事の相談の場面は、よくある相談をもとにした例です。特定の会社のことではありません。
相談1:従業員10人ほどの会社でも、買手は見つかりますか?

従業員10人ほどの小さな電気工事会社です。こんな規模でも、買ってくれる会社はあるのでしょうか?
見つかる可能性は十分にあります。電気工事の業界では、資格を持つ職人の不足が深刻なため、職人がそろっている会社を引き継ぎたいと考える買手が多くいます。規模が小さくても、資格者の人数や、安定した取引先があることが評価されます。
会社の大きさよりも、人と取引先が大切なんですね!
電気工事会社でM&Aが増えている主な背景には、次のようなものがあります。
- 後継者不足:家族で営んできた会社で、子どもが継がないケースが増えている
- 職人の不足と高齢化:電気工事士などの資格者が足りず、若い人材も集まりにくい
- 需要の広がり:太陽光発電や蓄電池、電気自動車の充電設備、省エネの改修など、新しい工事が増えている
- 元請けの変化:大きな工事では、一定以上の規模や体制を持つ会社が選ばれやすくなっている
- 業界の再編:設備工事の会社が、電気・空調・給排水などをまとめて請けるために、M&Aを活用している
買手から見ると、資格を持つ職人を一から採用して育てるには長い時間がかかります。そのため、職人と取引先がそろった会社を引き継ぐことは、事業を広げるための近道になります。
相談2:会社を売ったら、許可や登録はどうなりますか?

うちは建設業許可と、電気工事業の登録をしています。会社を売った場合、これらはどうなるのですか?
M&Aの方法によって扱いが変わります。株式譲渡であれば、許可や登録を受けている会社そのものは変わらないため、原則としてそのまま続きます。ただし、役員などが変わる場合は、届出や要件の確認が必要です。
売り方によって、許可の扱いが変わるんですね!
電気工事会社に関係する主な許可・登録は、次のとおりです。
| 許可・登録 | 主な内容 |
|---|---|
| 建設業許可(電気工事業) | 一定の金額以上の電気工事を請け負うための許可(建設業法) |
| 電気工事業の登録・届出 | 電気工事の事業を営むための登録や届出(電気工事業の業務の適正化に関する法律) |
| 主任電気工事士 | 営業所ごとに置く必要がある、電気工事の責任者 |
| 経営事項審査 | 公共工事の入札に参加するための審査 |
株式譲渡の場合
会社そのものが変わらないため、許可や登録は原則としてそのまま続きます。ただし、建設業許可では、経営の体制や営業所の技術者についての要件があります。売却にあわせて経営者や役員が交代する場合、要件を満たす人が会社に残るかどうかを、必ず確認しておきましょう。要件を満たす人がいなくなると、許可を続けられなくなるおそれがあります。
事業譲渡・合併・会社分割の場合
建設業許可については、事前に行政の認可を受けることで、許可を引き継げる仕組みがあります。[注1] 一方、電気工事業の登録などは、引き継ぐ側があらためて手続きをする必要がある場合があります。手続きの順番や期間を誤ると、工事を受けられない期間が生じるおそれがあるため、許可を出している都道府県などに、早めに確認しておきましょう。
相談3:経営者が辞めると、許可の要件を満たせなくなりませんか?
許可の要件を満たしているのは、実質的に私だけです。私が引退したら、許可はどうなってしまうのでしょうか?
そこは、電気工事会社の売却でいちばん注意したい点です。経営者が要件を満たす唯一の人である場合は、売却後も一定期間、役員として残るか、買手の側で要件を満たす人を用意してもらう必要があります。
自分がいなくなったあとの体制も、考えておかないといけないんですね!
小さな電気工事会社では、経営者が経営の責任者であり、技術の責任者であり、主任電気工事士でもある、というケースがよくあります。この場合、経営者が売却と同時に会社を離れると、許可や登録の要件を満たせなくなるおそれがあります。
売却を考え始めたら、次の点を確認しておきましょう。
- 許可の要件を満たしている人は誰か、何人いるか
- 社内に、要件を満たせそうな社員や役員候補がいるか
- 経営者が売却後に役員として残る期間を、どのくらいにするか
- 買手の会社に、要件を満たす人がいるか
社内で資格者を育てておくことは、売却のためだけでなく、会社を安定して続けるためにも役立ちます。
相談4:買手は、どこを見て会社を評価するのですか?
買手は、うちの会社のどこを見て、価値を判断するのですか?
資格を持つ職人の人数と年齢、元請けや取引先との関係、得意な工事の分野、売上と利益の安定性、そして工事の品質や安全の実績が主なポイントです。
職人さんの年齢まで見られるんですね!
| 評価のポイント | 内容 |
|---|---|
| 資格者 | 第一種・第二種電気工事士、電気工事施工管理技士などの人数と年齢 |
| 取引先 | 元請けのゼネコンや工務店、ハウスメーカー、工場などとの取引の年数と割合 |
| 工事の分野 | 住宅、ビル、工場、公共工事、太陽光発電などの得意な分野 |
| 売上の安定性 | 継続的な保守・点検の仕事、毎年の売上と利益の推移 |
| 安全と品質 | 事故の有無、工事の不具合やクレームの記録 |
| 公共工事 | 経営事項審査の点数、入札への参加の実績 |
| 車両・工具 | 高所作業車などの車両と工具の状態 |
特定の元請けへの偏りに注意
売上の多くを、1社の元請けに頼っている会社は少なくありません。取引が安定していることは強みですが、その元請けとの取引がなくなると売上が大きく減るため、買手はリスクとして見ることがあります。売上の内訳を整理し、取引先ごとの割合や、取引が続いてきた年数を説明できるようにしておきましょう。
保守・点検の仕事は評価されやすい
ビルや工場の電気設備の保守・点検のように、毎年続く仕事は、売上の見通しが立てやすいため、買手から評価されやすい傾向があります。継続している契約の一覧を整理しておくと、会社の強みを伝えやすくなります。
相談5:職人が辞めてしまわないか心配です
会社を売ったら、職人たちが辞めてしまうのではないかと心配です。どうすればいいでしょうか?
職人の定着は、買手にとっても最も大切なポイントです。売却の条件として、一定期間の雇用の継続や、給与などの待遇を大きく下げないことを、最終契約で約束してもらうことができます。伝えるタイミングと伝え方も、慎重に考えましょう。
職人さんを守ることが、会社の価値を守ることにもなるんですね!
職人への説明は、一般的に、売却の条件がまとまり、最終契約を結ぶ前後の段階で行います。早すぎる段階で話が広まると、不安を感じた職人が辞めてしまったり、取引先に話が伝わったりするおそれがあるためです。
説明するときは、次のことを具体的に伝えると、職人の不安を減らしやすくなります。
- 雇用は続くこと、給与や手当の扱い
- 現場の仕事の進め方や、仲間が変わらないこと
- 新しい会社に入ることで、仕事の幅や資格の取得の機会が広がること
- 経営者が一定期間、会社に残って引き継ぎをすること
相談6:元請けとの取引は、売却後も続きますか?
長年取引してきた元請けがいます。会社を売ったあとも、取引は続けてもらえるのでしょうか?
多くの場合、取引は続きます。ただし、元請けとの契約に、株主や経営者が変わるときの決まりが入っていることもあるため、契約書を確認しておきましょう。売却後に、新しい経営者と一緒にあいさつに行くことも大切です。
長年の信頼関係を、しっかり引き継ぐことが大切なんですね!
元請けとの取引は、契約書よりも、経営者同士の信頼関係で続いていることが少なくありません。そのため、経営者が売却後すぐに会社を離れると、取引が細ってしまうおそれがあります。引き継ぎの期間を十分にとり、元請けの担当者に新しい経営者を紹介していくことが大切です。
相談7:売却の前に、何を準備すればいいですか?
売却に向けて、どんな書類をそろえておけばいいですか?
決算書などの財務の書類に加えて、許可や登録の書類、資格者の一覧、主な取引先との契約書、工事の実績の一覧などをそろえておくと、買手の確認がスムーズに進みます。
許可と人に関わる書類が、特に大切なんですね!
| 書類の種類 | 主な内容 |
|---|---|
| 財務の書類 | 直近3期分の決算書、取引先別・工事の分野別の売上 |
| 許可・登録の書類 | 建設業許可の通知書、電気工事業の登録・届出の書類、変更の届出の控え |
| 人の書類 | 従業員の一覧、資格の一覧と資格証の写し、雇用契約書、社会保険の加入状況 |
| 取引の書類 | 主な元請け・取引先との契約書、保守・点検の契約の一覧 |
| 工事の書類 | 主な工事の実績、施工中の工事の一覧、事故や不具合の記録 |
| 資産の書類 | 車両・工具の一覧、リース契約書、事務所や倉庫の賃貸借契約書 |
見落としやすい「未払いの残業代」
現場の仕事が中心の会社では、移動の時間や早朝の準備の時間などの扱いがあいまいになり、残業代が正しく払われていないことがあります。買手の調査で見つかると、価格が下がったり、表明保証の問題になったりするおそれがあります。勤務の時間の記録と給与の支払いの方法を、売却の前に社会保険労務士などに確認してもらうと安心です。
相談8:売却のあと、私はどうなりますか?
売却したあと、私はすぐに引退できるのでしょうか?
電気工事会社の場合は、許可の要件や元請けとの関係を引き継ぐために、半年から数年ほど、役員や顧問として会社に残ることを求められることが多くあります。期間や役割、報酬は、最終契約の中で具体的に決めておきましょう。
すぐに引退するのではなく、引き継ぎの期間があるんですね!
売却後に会社に残る場合は、「何となく手伝う」のではなく、何をどこまでするのかをはっきりさせておくことが大切です。たとえば、次のようなことを決めておきます。
- 役員として残るのか、顧問として関わるのか
- 残る期間と、週に何日出社するか
- 担当する仕事(元請けへのあいさつ、職人の相談役、許可の要件の維持など)
- 報酬の金額と支払いの方法
電気工事会社の主な買手
| 買手の種類 | 主な目的 |
|---|---|
| 同じ地域の電気工事会社 | 職人を増やし、受けられる工事の量を増やしたい |
| 設備工事の会社 | 空調や給排水と合わせて、設備工事をまとめて請けたい |
| 建設会社・ゼネコン | 電気工事を自社のグループで行いたい |
| 太陽光・省エネ関連の会社 | 施工の体制を自社で持ちたい |
| 他の地域の会社 | 新しい地域に進出したい |
よくある質問
赤字の電気工事会社でも売れますか?
赤字であっても、資格を持つ職人がそろっていたり、安定した取引先があったりすれば、買手が見つかることはあります。赤字の原因が一時的なものか、経営者の役員報酬が高いことなどによるものかを整理して、説明できるようにしておきましょう。
個人事業として電気工事をしていますが、売却できますか?
個人事業の場合は、株式譲渡はできないため、事業譲渡の形で引き継ぐことになります。許可や登録は個人に対して出ているため、引き継ぐ側があらためて手続きをする必要がある場合があります。早めに専門家と行政に相談しましょう。
売却の相談をしたことが、取引先や職人に知られませんか?
M&Aの仲介会社は、秘密保持の契約を結んだうえで相談を受けます。買手の候補に会社の情報を伝えるときも、最初は会社名を伏せた資料を使い、具体的な検討に進む段階で、秘密保持の契約を結んでから詳しい情報を伝えるのが一般的です。
売却価格は、どのように決まりますか?
会社の純資産に、事業が生み出す利益の数年分を加えて考える方法がよく使われます。電気工事会社の場合は、資格者の人数や年齢、取引先の安定性、継続的な保守・点検の契約の有無などが、価格に影響します。
電気工事会社のM&Aは、許可・資格者・取引先の引き継ぎがカギ
電気工事会社のM&Aでは、建設業許可や電気工事業の登録などの扱いに加えて、許可の要件を満たす人が売却後も会社に残るかどうかが、大きなポイントになります。資格を持つ職人と、元請けとの信頼関係は、会社の価値そのものです。
許可を出している行政への確認や、職人への説明、元請けへの引き継ぎも含めて、時間に余裕を持って準備を進めることが、売却を成功させるポイントです。
「M&A一括見積の窓口」では、会社の売却や事業承継を検討している経営者様向けに、M&A仲介会社の一括見積もりサービスを提供しています。
「職人と取引先を守りながら、会社を次の経営者に引き継ぎたい」とお考えの方は、ぜひM&A一括見積の窓口にご相談ください。
[注1] 国土交通省:建設業法(事業譲渡等における建設業許可の承継)