農業法人のM&A|売却・事業承継でよくある9つの疑問に答えます

農業法人のM&A|売却・事業承継でよくある9つの疑問に答えます

「自分が元気なうちは続けられるが、跡を継ぐ人がいない」

農業法人の経営者から、このような相談が増えています。農業は、土地、機械、栽培の技術、販売先と、積み上げてきたものが多い事業です。簡単にやめてしまうのは、もったいないと感じる経営者も少なくありません。

一方で、農業には、一般の会社にはない特別なルールがあります。特に、農地に関する決まりは、M&Aの進め方に大きく影響します。「農業法人でもM&Aはできるのか」「農地はどうなるのか」といった疑問を持つ方も多いでしょう。

この記事では、農業法人のM&Aで、経営者がよく抱く9つの疑問に、Q&A形式でお答えします。なお、農地に関する手続きや要件は、法人の形態や地域によって異なる場合があります。具体的に進めるときは、必ず農業委員会や専門家に事前に確認してください。

この記事で答える9つの疑問

稲刈りをする農業の現場
No.疑問
1農業法人でもM&Aはできますか?
2農地所有適格法人とは何ですか?
3農地はどうなりますか?
4株式譲渡と事業譲渡のどちらがよいですか?
5誰が買手になりますか?
6補助金で買った機械はどうなりますか?
7会社の価値は、どう評価されますか?
8従業員や取引先には、どう影響しますか?
9売却の前に、何を準備しておけばよいですか?

農業法人のM&Aの基本

ハウスで作物を育てる農業の現場
 

そもそも、農業法人でもM&Aはできるのですか?

 
 

できます。後継者のいない農業法人が、ほかの農業法人や、農業に参入したい企業に引き継がれる例は、全国で増えています。ただし、農地に関するルールがあるため、一般の会社より、確認すべき点が多くなります。

 
 

農業でも、会社を引き継ぐ選択肢があるんですね!

 

Q1. 農業法人でもM&Aはできますか?

はい、できます。農業法人は、会社の形をとっているため、株式や事業を引き継ぐことで、M&Aが可能です。

農業の分野では、後継者の不足が大きな課題になっています。そのため、農地や設備、栽培のノウハウ、従業員をまとめて引き継ぎたいという企業や農業法人も、少なくありません。たとえば、規模を広げたい近隣の農業法人、農業に新しく参入したい食品会社や小売会社などが、買手の候補になります。

Q2. 農地所有適格法人とは何ですか?

法人が農地を所有するために、農地法で定められた要件を満たした法人のことです。農業法人のM&Aを考えるうえで、最も大切な概念の一つです。

農地を所有できる法人は、一般に、次のような要件を満たす必要があるとされています。

  • 株式会社(株式譲渡制限があるもの)や農事組合法人などの、決められた法人の形であること
  • 売上の大部分が、農業(および関連する事業)であること
  • 農業に関わる人が、議決権の過半を持っていること
  • 役員の過半が、農業に常時従事していること
  • 役員または重要な使用人のうち、一定の期間、農作業に従事する人がいること

細かい基準は、法律や運用の変更によって見直されることがあります。実際に判断するときは、最新の内容を、農業委員会や専門家に確認してください。

農地とスキームの疑問

 

農地は、会社を売ったら、そのまま買手のものになるのですか?

 
 

株式を売る場合と、事業を売る場合で、扱いが大きく変わります。どちらの方法でも、農地に関する手続きの確認が必要です。

 
 

売り方によって、手続きが変わるんですね!

 

Q3. 農地はどうなりますか?

農地の扱いは、M&Aの方法によって変わります。

株式を譲渡する場合は、農地の持ち主は、これまでどおり法人のままです。そのため、農地の名義を変える手続きは、基本的に必要ありません。ただし、買手が株主になったあとも、農地所有適格法人としての要件を満たし続けなければなりません。特に、「農業に関わる人が議決権の過半を持つ」という要件には注意が必要です。農業に関わらない企業が買手になる場合は、議決権の割合に制限があるため、事前の確認が欠かせません。

事業を譲渡する場合は、農地を法人から別の人や法人に移すことになります。農地の権利を移すときは、原則として、農業委員会の許可が必要です。許可が出るかどうかは、買手が農地を適切に使えるかなどの条件を満たしているかによって決まります。時間がかかることもあるので、早めの相談が大切です。

Q4. 株式譲渡と事業譲渡のどちらがよいですか?

一概にはいえませんが、農地を多く持つ農業法人では、株式譲渡が選ばれることが多くなっています。

株式譲渡のメリットは、農地の名義変更をしなくて済む点や、契約や許認可をそのまま引き継ぎやすい点です。一方で、買手が農地所有適格法人の要件を維持できるかどうかが、課題になります。

事業譲渡は、引き継ぐ資産や契約を選べるのが利点です。しかし、農地の権利の移転に許可が必要になり、手続きに手間と時間がかかります。どちらが合うかは、法人の形態、農地の量、買手の種類によって変わります。専門家と相談して決めましょう。

Q5. 誰が買手になりますか?

主な買手は、次のような相手です。

  • 規模を広げたい、近隣の農業法人
  • 農業に参入したい、食品メーカー・外食・小売などの企業
  • 農産物の加工や販売まで一貫して手がけたい、商社や流通の会社
  • 地域で担い手を探している、農業を志す個人

買手によって、買収後の農地の使い方や、従業員の扱いが変わります。価格だけでなく、「自分が育ててきた農地や作物を、どう生かしてくれるのか」という点も、見比べておきたいところです。

設備・お金・人の疑問

 

補助金を使って買った機械やハウスが、売却に影響することはありますか?

 
 

あります。補助金で取得した財産には、一定の期間、使い道や処分に制限がかかることがあります。売却する前に、補助金の窓口で確認することが大切です。

 
 

補助金の条件も、忘れずに調べておかないといけませんね!

 

Q6. 補助金で買った機械はどうなりますか?

農業では、国や自治体の補助金を使って、機械、ハウス、倉庫などを整えている法人が多くあります。補助金で取得した財産には、「処分制限期間」が設けられているのが一般的です。この期間内に、財産を売却したり、貸したり、目的外に使ったりする場合は、事前の承認が必要になることがあります。

株式を譲渡する場合でも、会社の支配者が変わることで、補助金の条件に影響する可能性があります。補助金の種類によって、決まりは異なります。売却を考え始めたら、早めに、補助金の窓口や専門家に確認しましょう。確認を怠ると、補助金の返還を求められるおそれもあります。

Q7. 会社の価値は、どう評価されますか?

農業法人の価値も、一般の会社と同様に、純資産や将来の利益をもとに評価されます。ただし、農業ならではの評価のポイントがあります。

  • 農地の面積と、その使いやすさ(区画の形、水利、立地など)
  • 栽培している作物の種類と、収益の安定性
  • 販売先の広さと、契約の内容
  • 機械やハウスの状態と、更新の必要性
  • 栽培の技術や、働いている人の経験
  • 経営者の個人的な技術や人脈への依存度

特に、栽培の技術が経営者個人の経験に頼っている場合は、その技術を従業員に引き継げるかどうかが、評価に影響します。マニュアルや記録を整理しておくと、買手に安心感を与えられます。

Q8. 従業員や取引先には、どう影響しますか?

株式譲渡では、会社そのものは変わらないため、従業員の雇用や取引先との契約は、そのまま続くのが基本です。事業譲渡では、従業員の雇用契約や取引先との契約を、個別に引き継ぐ手続きが必要になります。

農業は、人の技術に支えられた仕事です。経験のある従業員が辞めてしまうと、収穫量や品質に影響します。そのため、買手を選ぶときは、従業員の雇用を守る考えがあるかどうかを確かめましょう。

取引先についても、農協や市場、スーパー、飲食店など、販売先との関係が、買手に引き継がれるかどうかが大切です。契約の内容に、経営者の交代で解除できる条件がないかを、確認しておきましょう。

準備と進め方

 

農業法人を売る前に、準備しておくことはありますか?

 
 

農地の権利関係の整理、補助金の確認、栽培の記録づくりの3つは、特に早めに取り組みたいことです。農業法人は確認すべき点が多いので、半年から1年の余裕をもって準備しましょう。

 
 

準備に時間がかかりそうですね。早めに始めます!

 

Q9. 売却の前に、何を準備しておけばよいですか?

農業法人の売却を考えたら、次の項目を確認しておきましょう。

  1. 農地の権利関係の整理:所有している農地と、借りている農地を分けて一覧にします。借りている農地の貸主との契約の内容、期間、名義も確認します。
  2. 農地所有適格法人の要件の確認:現在の株主構成や役員の状況が、要件を満たしているかを確かめます。
  3. 補助金の確認:補助金で取得した機械や施設の一覧と、処分制限の期間を調べます。
  4. 栽培の記録と手順の整理:作付けの計画、肥料や農薬の記録、作業の手順を、書類にまとめます。
  5. 販売先と契約の整理:主な取引先、取引量、契約の内容をまとめます。
  6. 決算書と税務の整理:過去3期分ほどの決算書をそろえ、会社と個人のお金の区別を確認します。
  7. 相談先の選択:農業分野の実績がある仲介会社や専門家を、複数比べて選びます。

特に、農地の権利関係は、親の代から引き継いだ農地の名義が整理されていないなど、時間のかかる課題が見つかることがあります。早めに専門家に確認しておくと、慌てずに進められます。

農業法人のM&Aで気をつけたいこと

農業法人のM&Aでは、一般の会社と同じ手続きに加えて、農地や補助金の確認が必要になります。確認すべき点が多いため、次の3点を意識しておきましょう。

  • 農地に関する手続きや要件は、必ず農業委員会などの公的な窓口に確認する
  • 補助金で取得した財産は、売却の前に、処分の制限を調べておく
  • 農業の分野に詳しい専門家を、相談先に選ぶ

農業は、地域とのつながりも大切な事業です。農地を貸してくれている地主、近隣の農家、地元の農協との関係も、買手に引き継げるように、丁寧に進めましょう。

よくある質問

農地を持っていない農業法人でも、同じように考えればよいですか?

農地を借りて経営している法人の場合は、農地の「所有」に関する要件は問題にならないことがあります。ただし、借りている農地の契約が、経営者の交代で解約される条件になっていないかを、確認する必要があります。貸主の同意が必要なこともあるので、早めに確認してください。

個人で農業をしている場合も、M&Aはできますか?

個人農家の場合は、事業を引き継ぐ形になります。農地の権利を移す手続きや、補助金の条件を、同じように確認します。個人事業の売却については、会社の売却とは進め方が異なる点もあるため、専門家に相談しましょう。

農業法人の売却は、どれくらいの期間がかかりますか?

一般的な中小企業のM&Aは、半年から1年ほどかかります。農業法人の場合は、農地の手続きや補助金の確認が加わるため、さらに時間がかかることもあります。余裕をもって、早めに動き始めましょう。

準備を整えて、農地と仲間を次の世代へ

農業法人のM&Aは、一般の会社に比べて、農地や補助金など、確認すべきことが多くあります。しかし、手順を踏んで進めれば、後継者のいない農業法人でも、大切な農地や従業員、栽培の技術を、次の世代につなぐことができます。

まずは、農地の権利関係と補助金の状況を整理し、農業の分野に詳しい専門家に相談することから始めましょう。複数の仲介会社に話を聞いて、自社に合った相手を選ぶことが、納得のいく引き継ぎへの近道です。

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