会社売却と役員退職金の関係とは?手元に残るお金への影響と、受け取るときの注意点を解説

会社売却と役員退職金の関係とは?手元に残るお金への影響と、受け取るときの注意点を解説

会社を売却するとき、多くの経営者は「売却価格がいくらになるか」に注目します。しかし、実際に大切なのは、税金を差し引いたあとに、手元にいくら残るかです。

中小企業のM&Aでは、経営者が会社を退くときに受け取る「役員退職金」の扱いによって、手元に残るお金が変わることがあります。株式の売却代金と役員退職金では、税金の計算の仕方が異なるためです。

ただし、役員退職金は、決め方や受け取り方を誤ると、思ったような効果が得られなかったり、税務署から指摘を受けたりするおそれもあります。

ここでは、会社売却と役員退職金の関係と、税金の違い、退職金を受け取る時期、金額を決めるときの注意点について解説します。

会社売却と役員退職金の関係

売却後の人生を考える経営者
 

会社を売るときに、なぜ役員退職金が関係するのですか?

 
 

株式譲渡で会社を売る場合、経営者は株式の売却代金を受け取ります。それとは別に、会社から役員退職金を受け取ることもできます。この2つの受け取り方の組み合わせによって、税金の合計や手元に残るお金が変わるためです。

 
 

受け取り方を工夫することで、手元に残るお金が変わるんですね!

 

中小企業のM&Aでは、経営者が株主であり、同時に役員でもあることがほとんどです。そのため、会社を売却するときには、次の2つのお金を受け取る可能性があります。

受け取るお金支払う人内容
株式の売却代金買手持っている株式を買手に売った代金
役員退職金会社役員を退任するときに会社から支払われるお金

会社が役員退職金を支払うと、その分だけ会社のお金が減り、会社の価値(株式の価値)も下がります。そのため、役員退職金を受け取ると、その分、株式の売却代金は少なくなるのが一般的です。

税金の違い

引退を迎える経営者
 

株式の売却代金と役員退職金では、税金はどう違うのですか?

 
 

株式の売却で得た利益には、ほかの所得とは分けて、一定の税率で税金がかかります。役員退職金には、退職所得控除という大きな控除があり、さらに一定の場合は、控除後の金額の2分の1だけに税金がかかる仕組みがあります。

 
 

税金の計算の仕方が、まったく違うんですね!

 

株式の売却代金にかかる税金

株式を売って得た利益(売却代金から、株式の取得にかかった費用などを差し引いたもの)には、ほかの所得とは分けて、所得税と住民税などを合わせて約20%の税金がかかります。

役員退職金にかかる税金

役員退職金は「退職所得」として、次のように税金が計算されます。

退職所得 =(退職金の額 - 退職所得控除額)× 2分の1

退職所得控除額は、勤続年数に応じて決まります。

勤続年数退職所得控除額
20年以下40万円 × 勤続年数(最低80万円)
20年を超える800万円 + 70万円 ×(勤続年数 - 20年)

たとえば、勤続30年の場合、退職所得控除額は1,500万円になります。退職金からこの控除額を差し引き、さらにその2分の1に対して、ほかの所得とは分けて税金が計算されます。[注1]

ただし、役員としての勤続年数が5年以下の場合は、2分の1にする仕組みが使えない場合があるなど、細かい決まりがあります。

手元に残るお金が増えることがある

役員退職金は、退職所得控除と2分の1の仕組みによって、金額によっては、株式の売却代金で受け取るよりも税金の負担が軽くなることがあります。そのため、売却代金の一部を役員退職金として受け取ることで、税金を差し引いたあとに手元に残るお金が増える場合があります。

どのくらいの金額を役員退職金にするのがよいかは、退職金の金額や勤続年数、株式の取得にかかった費用などによって変わります。必ず税理士に試算してもらいましょう。

会社と買手にとっての影響

 

役員退職金を支払うことは、会社や買手にとってはどうなのですか?

 
 

会社にとっては、適正な金額の役員退職金は費用として認められるため、会社の税金を減らす効果があります。買手にとっても、退職金を支払ったあとの会社を買うことになるため、価格の交渉の中で扱いを決めておく必要があります。

 
 

売手だけでなく、会社と買手にも関わることなんですね!

 

会社の税金への影響

会社が支払う役員退職金は、適正な金額であれば、会社の費用(損金)として認められます。その結果、会社の利益が減り、法人税などの負担が軽くなります。

買手との交渉

役員退職金を支払うと、会社のお金や価値が減るため、売却価格に影響します。役員退職金をいくら支払うのか、そのお金をどのように用意するのかを、買手と事前に話し合い、最終契約にはっきり書いておくことが大切です。

役員退職金を受け取る時期

 

役員退職金は、いつ受け取ればいいのですか?

 
 

クロージングの前に受け取る方法と、クロージングのあとに受け取る方法があります。どちらにするかによって、売却価格や手続きが変わるため、買手と事前に決めておくことが大切です。

 
 

受け取る時期も、大切なポイントなんですね!

 
受け取る時期主な特徴
クロージングの前売手の会社として退職金の支払いを決める。その分、売却価格は下がるのが一般的
クロージングのあと買手が会社の株主として退職金の支払いを決める。契約で支払いを約束しておく必要がある

クロージングのあとに受け取る場合は、新しい株主である買手が、株主総会で退職金の支払いを決めることになります。約束どおり支払われるよう、最終契約に、退職金の金額や支払いの時期を書いておくことが大切です。

役員退職金の注意点

 

役員退職金を受け取るときに、気をつけることはありますか?

 
 

金額が高すぎると会社の費用として認められないことがあることと、売却後も会社に残る場合に、本当に退職したと言えるかに注意が必要です。

 
 

決まりを守らないと、思わぬ税金がかかることもあるんですね!

 

金額が高すぎないか

役員退職金の金額が、仕事の内容や勤続年数に比べて高すぎる場合は、高すぎる部分が会社の費用として認められないことがあります。一般的には、退任するときの役員報酬の月額、勤続年数、会社への貢献の度合いなどをもとに、適正な金額を考えます。

本当に退職したと言えるか

売却後も、顧問などとして会社に残ることはよくあります。ただし、引き続き経営に深く関わっている場合は、実際には退職していないと判断され、退職金として認められないおそれがあります。売却後に会社に残る場合は、役割や報酬の決め方について、税理士に相談しておきましょう。

支払いのお金を用意できるか

役員退職金を支払うには、会社に十分なお金がある必要があります。お金が足りない場合は、会社が加入している保険を解約して支払いに充てるなどの方法を検討することもあります。

社内の手続き

役員退職金を支払うには、株主総会の決議など、会社としての手続きが必要です。会社の規程があれば、その内容に沿って金額を決めることになります。

役員退職金を考えるときの進め方

 

役員退職金を受け取ることを考える場合、どのように進めればいいですか?

 
 

まず税理士に、退職金を受け取る場合と受け取らない場合の手取りの違いを試算してもらいます。そのうえで、買手との交渉の中で、退職金の金額や支払いの時期を決めていくのが一般的です。

 
 

早い段階で試算しておくと、交渉もしやすそうですね!

 
  1. 税理士に試算してもらう:退職金の金額をいくつか想定して、手元に残るお金を比べる
  2. 会社の規程を確認する:役員退職金の規程があれば、その内容に沿った金額を考える
  3. 支払いのお金を確認する:会社に退職金を支払えるだけのお金があるかを確認する
  4. 買手と話し合う:退職金の金額、支払いの時期、売却価格への反映の仕方を決める
  5. 最終契約に書く:決めた内容を、最終契約にはっきり書いておく
  6. 社内の手続きを行う:株主総会の決議などを経て、退職金を支払う

早い段階で相談する

役員退職金の扱いは、売却価格の交渉と深く関わります。交渉が進んでから退職金の話を持ち出すと、条件の見直しが必要になり、話がまとまりにくくなることがあります。売却を考え始めた段階で、税理士や仲介会社に相談しておきましょう。

株式の売却代金と役員退職金の組み合わせ方の例

たとえば、会社の価値が3億円で、経営者が株式をすべて持っている場合を考えてみます。

受け取り方株式の売却代金役員退職金合計
退職金を受け取らない場合3億円なし3億円
退職金を受け取る場合2億円1億円3億円

どちらの場合も、受け取る金額の合計は同じ3億円です。しかし、株式の売却代金と役員退職金では税金の計算の仕方が違うため、税金を差し引いたあとに手元に残るお金は変わります。

※この表は考え方を示すための例です。実際には、会社の税金への影響や、退職金の適正な金額などを考える必要があるため、必ず専門家に試算してもらいましょう。

役員退職金でよくある質問

役員退職金を受け取ると、必ず得になりますか?

必ず得になるとは限りません。退職金の金額や勤続年数、株式の取得にかかった費用などによっては、株式の売却代金で受け取ったほうが、手元に残るお金が多くなることもあります。複数の受け取り方について、税理士に試算してもらって比べることが大切です。

家族の役員にも退職金を支払えますか?

家族が役員として実際に会社の仕事をしてきた場合は、その仕事の内容に応じた退職金を支払うことができます。ただし、仕事の実態がない場合や、金額が高すぎる場合は、会社の費用として認められないおそれがあるため注意が必要です。

役員退職金は、売却の計画と一緒に考えよう

会社を売却するときは、株式の売却代金だけでなく、役員退職金の扱いによって、手元に残るお金が変わることがあります。役員退職金には税金の負担を軽くする仕組みがある一方で、金額や受け取り方を誤ると、思わぬ税金がかかるおそれもあります。

売却の計画を立てる早い段階から、仲介会社や税理士と相談して、自分に合った受け取り方を考えておくことが大切です。

「M&A一括見積の窓口」では、会社の売却や事業承継を検討している経営者様向けに、M&A仲介会社の一括見積もりサービスを提供しています。

「会社を売ったときに、手元にいくら残るのか知りたい」とお考えの方は、ぜひM&A一括見積の窓口にご相談ください。

[注1] 国税庁:退職金を受け取ったとき(退職所得)