人材派遣会社のM&Aとは?派遣事業の許可の扱いや、買手が評価するポイントを解説

人材派遣会社のM&Aとは?派遣事業の許可の扱いや、買手が評価するポイントを解説

人手不足が続く中で、企業に必要な人材を届ける人材派遣会社の役割は、ますます大きくなっています。

一方で、人材派遣の業界では、法律の改正への対応や、派遣スタッフの確保、営業担当者の採用など、経営の負担も増えています。また、経営者の高齢化や後継者不足に悩む会社も少なくありません。

こうした中で、派遣スタッフや派遣先との関係を守りながら会社を引き継ぐ方法として、人材派遣会社のM&Aが増えています。

ただし、人材派遣会社のM&Aでは、労働者派遣事業の許可の扱いや、法律で決められたルールを守っているかなど、ほかの業種にはない確認ポイントがあります。

ここでは、人材派遣会社でM&Aが増えている背景と、許可の扱い、買手が評価するポイント、売却で注意したいことについて解説します。

人材派遣会社でM&Aが増えている背景

派遣スタッフとの面談の様子
 

人材派遣会社では、なぜM&Aが増えているのですか?

 
 

経営者の高齢化と後継者不足に加えて、法律への対応の負担が大きくなっていることが理由です。一方で、買手にとっては、派遣スタッフや派遣先をまとめて手に入れられることが大きな魅力になっています。

 
 

人を集める力そのものが、会社の価値になるんですね!

 

人材派遣会社でM&Aが増えている主な背景には、次のようなものがあります。

  • 後継者不足:経営者が高齢になっても、会社を継ぐ人が見つからない
  • 法律への対応:同一労働同一賃金への対応など、ルールの変化に合わせた仕組みづくりが必要
  • 派遣スタッフの確保:働き手が減る中で、派遣スタッフを集めることが難しくなっている
  • 人材の需要:人手不足の企業からの、派遣スタッフの需要は続いている
  • 規模の拡大:大きな人材会社が、地域や業種を広げるためにM&Aを活用している

労働者派遣事業の許可とM&Aの関係

人材サービスを支える社員
 

人材派遣を行うには、どのような許可が必要なのですか?

 
 

労働者派遣事業を行うには、厚生労働大臣の許可が必要です。M&Aの方法によって、この許可の扱いが変わります。

 
 

派遣の仕事にも、国の許可が必要なんですね!

 

労働者派遣事業を行うには、労働者派遣法にもとづいて、厚生労働大臣の許可を受ける必要があります。許可には有効期間があり、更新の手続きも必要です。[注1]

M&Aの方法許可の扱い
株式譲渡会社が変わらないため、原則としてそのまま続く(役員の変更などの届出は必要)
事業譲渡許可は引き継げないため、引き継ぐ側が許可を持っている、または新たに受ける必要がある
合併・会社分割手続きの内容によって扱いが異なるため、労働局への事前の確認が必要

株式譲渡が選ばれることが多い

事業譲渡では許可を引き継げないため、引き継ぐ側が許可を持っていない場合は、新たに許可を受けるまで派遣の仕事を続けることができません。そのため、人材派遣会社のM&Aでは、許可がそのまま続く株式譲渡が選ばれることが多くあります。

許可の要件を満たし続ける

派遣事業の許可を維持するには、派遣元責任者を置くこと、一定の財産的な基礎があること、事業所が基準を満たしていることなどの要件を満たし続ける必要があります。経営者が派遣元責任者を兼ねている場合は、売却後に後任を確保できるかを確認しておきましょう。

職業紹介の許可

人材派遣と一緒に、人材紹介(有料職業紹介)を行っている場合は、そちらにも別の許可が必要です。それぞれの許可について、M&Aでの扱いを確認しておきましょう。

法令の順守の状況が特に大切

 

人材派遣会社ならではの、注意したいポイントはありますか?

 
 

派遣のルールを守って事業を行っているかが、特に詳しく確認されます。ルールを守っていないことが分かると、許可の取り消しなどの処分につながるおそれがあるため、買手は慎重に確認します。

 
 

ルールを守っていることが、会社の信用を支えているんですね!

 

デューデリジェンス(買収監査)では、主に次のような点が確認されます。

  • 同一労働同一賃金:派遣スタッフの待遇を決める方法(労使協定方式など)が、ルールどおりに運用されているか
  • 派遣の期間の制限:同じ派遣先の同じ部署で、決められた期間を超えて派遣していないか
  • 派遣先との契約:派遣の契約書に、決められた事項が書かれているか
  • 情報の公開:マージン率などの情報を、決められたとおりに公開しているか
  • 社会保険:派遣スタッフの社会保険の加入が適切に行われているか
  • 偽装請負:請負の契約なのに、実態が派遣になっていないか

問題が見つかった場合は、売却の前に改善しておくことが大切です。専門家に、事業の進め方を確認してもらいましょう。

買手が評価するポイント

 

人材派遣会社のM&Aでは、買手はどこを評価するのですか?

 
 

働いている派遣スタッフの人数、派遣先の数と関係、得意な業種や職種、利益率、法令の順守の状況などが主なポイントです。

 
 

人と取引先の両方が、会社の価値を支えているんですね!

 
評価のポイント内容
派遣スタッフ働いている人数、登録している人数、定着率
派遣先派遣先の数、取引の年数、売上の偏り
業種・職種事務、製造、物流、介護、ITなど、得意な分野
利益率派遣料金と賃金の差(粗利)の割合
集める力求人の方法、登録者を集める仕組み
法令の順守派遣のルールを守った運用ができているか
社員営業担当者やコーディネーターの人数と経験

派遣先の偏りに注意

売上の大部分を特定の派遣先に頼っている場合、その派遣先との取引が売却後も続くかどうかが、会社の価値を大きく左右します。派遣先ごとの売上の割合や、取引の年数を整理しておきましょう。

人材派遣会社の主な買手

買手の種類主な目的
同業の人材派遣会社地域や業種を広げ、派遣スタッフを増やしたい
人材紹介・求人の会社派遣の仕組みを取り込み、サービスを広げたい
業務を請け負う会社派遣と請負を組み合わせて、仕事を受けたい
異業種の会社自社の人材の確保や、新しい事業への進出に活かしたい

売却を成功させるためのポイント

派遣スタッフと派遣先に配慮する

売却の話が早い段階で広まると、派遣スタッフや派遣先が不安を感じてしまいます。伝える時期と内容を買手と相談し、派遣の仕事や待遇がこれまでどおり続くことを丁寧に説明しましょう。

数字を整理しておく

派遣先ごとの売上と粗利、働いている派遣スタッフの人数の推移、登録者の数などを整理し、事業の状態を数字で示せるようにしておくと、買手が判断しやすくなります。

売却前に準備しておきたい書類

 

人材派遣会社の売却に向けて、どんな書類をそろえておけばいいですか?

 
 

財務の書類に加えて、許可に関する書類、派遣先との契約書、派遣スタッフの雇用の記録、同一労働同一賃金への対応の資料などをそろえておくと、話がスムーズに進みます。

 
 

法律に沿って運営していることを、書類で示すことが大切なんですね!

 
書類の種類主な内容
財務の書類直近3期分の決算書、派遣先別の売上と粗利、借入金の一覧
許可の書類労働者派遣事業の許可証、変更の届出の控え、事業報告書
契約の書類派遣先との基本契約書と個別契約書、派遣スタッフとの雇用契約書
待遇の資料労使協定、賃金の決め方の資料、マージン率などの公開の記録
人の書類社員と派遣スタッフの一覧、社会保険の加入の状況、就業規則
管理の資料派遣元管理台帳、派遣の期間の管理の記録

人材派遣会社の売却価格の考え方

人材派遣会社は、工場や大きな設備を持たないことが多いため、会社の価値は、主に将来生み出す利益をもとに考えられます。そのため、利益の安定性や、派遣スタッフと派遣先との関係が続くかどうかが、価格に大きく影響します。

価格に影響しやすいポイントには、次のようなものがあります。

  • プラスに働きやすい点:派遣先が多く分散している、粗利率が高い、派遣スタッフの定着率が高い、専門性の高い職種に強い
  • マイナスに働きやすい点:特定の派遣先に売上が偏っている、法令の順守に不安がある、経営者の営業力に頼りすぎている

人材派遣会社のM&Aでよくある質問

小さな派遣会社でも売れますか?

はい。規模が小さくても、特定の業種や地域に強く、派遣先との関係が安定している会社は、事業を広げたい会社にとって魅力的な引き継ぎ先になることがあります。

売却後、派遣スタッフの雇用はどうなりますか?

株式譲渡の場合は、会社がそのまま続くため、派遣スタッフの雇用契約も原則としてそのまま続きます。事業譲渡の場合は、派遣スタッフの同意を得て、新しい会社と雇用契約を結び直す必要があります。

売却後、経営者はどうなりますか?

派遣先との関係を引き継ぐため、一定期間、役員や顧問として会社に残ることを求められることが多くあります。特に、経営者自身が主な派遣先との窓口になっている場合は、引き継ぎの期間を長めにとることが大切です。

人材紹介の事業も一緒に売れますか?

はい。人材派遣と一緒に、人材紹介の事業も引き継いでもらうことができます。ただし、人材紹介には別の許可が必要なため、M&Aの方法によって、許可の扱いを確認しておきましょう。

人材派遣会社のM&Aは、許可と法令の順守がカギ

人材派遣会社のM&Aでは、労働者派遣事業の許可を引き継げるかと、派遣のルールを守って事業を行っているかが大きなポイントです。事業譲渡では許可を引き継げないため、株式譲渡が選ばれることが多くあります。

派遣スタッフや派遣先への配慮も含めて、早めに準備を進めることが、売却を成功させるポイントです。

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[注1] 厚生労働省:労働者派遣法