税理士事務所の承継とは?個人事務所と税理士法人での違いや、顧問先の引き継ぎ方を解説

税理士事務所の承継とは?個人事務所と税理士法人での違いや、顧問先の引き継ぎ方を解説

税理士事務所や会計事務所では、所長である税理士の高齢化が進んでいます。長年お付き合いのある顧問先がいても、事務所を継ぐ税理士が身近にいないために、事務所をどうするかで悩む所長も少なくありません。

「顧問先のみなさんに迷惑をかけずに、事務所を引き継ぎたい」

そう考える所長にとって、ほかの税理士や税理士法人に事務所を引き継いでもらう「承継」は、有力な選択肢の一つです。

ただし、税理士事務所の承継は、一般の会社のM&Aとは異なる点があります。事務所が個人事務所なのか税理士法人なのかによって引き継ぎの方法が変わるほか、税理士には法律で厳しい守秘義務があるため、顧問先の情報の扱いにも注意が必要です。

ここでは、税理士事務所の承継の方法と、個人事務所と税理士法人での違い、価格の考え方、顧問先と職員への配慮、承継の流れについて解説します。

税理士事務所の承継が増えている背景

顧問先の書類を準備する職員
 

税理士事務所の承継は、なぜ増えているのですか?

 
 

所長の高齢化と、親族や職員の中に事務所を継ぐ税理士がいないことが大きな理由です。一方で、顧問先を増やして事務所を大きくしたいと考える税理士や税理士法人も増えています。

 
 

譲る側と引き継ぐ側の両方に、理由があるんですね!

 

税理士事務所の承継が増えている主な背景には、次のようなものがあります。

  • 所長の高齢化:税理士の年齢層が高く、引退を考える所長が増えている
  • 後継者がいない:子どもが税理士にならなかった、職員に資格を持つ人がいない
  • 仕事の仕組みの変化:会計ソフトのクラウド化や電子申告など、新しい仕組みへの対応が必要になっている
  • 人材の確保:経験のある職員を採用するのが難しい
  • 規模の拡大:大きな事務所が、顧問先や職員を増やすために承継を活用している

個人事務所と税理士法人での違い

事務所の引き継ぎを準備する様子
 

個人事務所と税理士法人では、承継の方法は違うのですか?

 
 

はい。個人事務所の場合は、顧問先との契約や職員、事務所の設備などを、引き継ぐ税理士に個別に移す方法になります。税理士法人の場合は、法人の社員を入れ替えることで、法人ごと引き継ぐ方法が中心になります。

 
 

事務所の形によって、進め方が変わるんですね!

 
事務所の形主な承継の方法主な特徴
個人事務所顧問先との契約、職員、設備などを個別に引き継ぐ顧問先一人ひとりの同意を得て、新しい税理士と契約を結び直す
税理士法人法人の社員(出資者)を入れ替える法人が顧問契約を持ったまま続くため、引き継ぎが比較的スムーズ

個人事務所の場合

個人事務所では、所長である税理士個人が、顧問先と契約を結んでいます。そのため、事務所を引き継ぐには、顧問先一人ひとりに事情を説明し、新しい税理士と契約を結び直してもらう必要があります。

また、職員は所長個人に雇われているため、一度退職し、新しい事務所で雇用契約を結び直すのが一般的です。

税理士法人の場合

税理士法人は、税理士が社員となって設立する法人で、法人として顧問先と契約を結んでいます。社員になれるのは税理士だけです。承継では、引き継ぐ税理士が法人の社員になり、所長が社員を退くという形で進めることが多くあります。法人が顧問契約を持ったまま続くため、顧問先との契約を一つずつ結び直す必要がない点が特徴です。

個人事務所を法人にしてから承継する方法もある

個人事務所を、承継の前に税理士法人にしておく方法もあります。法人にしておけば、顧問先との契約を法人に移したうえで、社員を入れ替えて引き継ぐことができます。ただし、法人の設立には手続きや費用がかかるため、承継の時期や事務所の規模を考えて判断しましょう。

守秘義務と顧問先の情報の扱い

 

承継の相手を探すとき、顧問先の情報はどこまで伝えていいのですか?

 
 

税理士には法律で守秘義務があるため、顧問先が特定できる情報を、同意なく相手に伝えることはできません。相手を探す段階では、顧問先の数や業種、報酬の合計など、個別の顧問先が分からない形で伝えることが大切です。

 
 

守秘義務があるからこそ、情報の出し方に注意が必要なんですね!

 

税理士は、仕事を通じて知った顧問先の秘密を、正当な理由なく漏らしてはいけないと法律で定められています。[注1]

承継の相手を探す段階では、次のような形で情報を伝えるのが一般的です。

  • 顧問先の数と、法人・個人の内訳
  • 顧問先の業種や地域の傾向
  • 顧問料の合計と、顧問先ごとの金額の分布
  • 職員の人数と、担当している業務

顧問先の名前や詳しい情報は、相手と秘密保持契約を結び、承継の話が具体的になってから、必要な範囲で伝えるようにしましょう。

価格の考え方

 

税理士事務所の承継の価格は、どのように決まるのですか?

 
 

顧問先から受け取っている年間の報酬を基準にして考えることが多くあります。顧問先がどのくらい継続してくれそうか、職員がどのくらい残ってくれるかによって、価格は大きく変わります。

 
 

顧問先が続いてくれるかどうかが、価格を左右するんですね!

 

税理士事務所の価値の中心は、顧問先との継続的な契約です。そのため、価格を考えるときには、年間の顧問料や決算の報酬などの合計を基準にすることが多くあります。

ただし、所長が変わることで、顧問先の一部が離れてしまうこともあります。そのため、承継後に顧問先がどのくらい残ったかによって、後から価格を調整する方法がとられることもあります。

価格に影響しやすいポイントには、次のようなものがあります。

  • プラスに働きやすい点:顧問先の数が多く安定している、法人の顧問先が多い、職員が定着している、業務の仕組みが整っている
  • マイナスに働きやすい点:顧問先が所長個人との関係でつながっている、報酬の低い顧問先が多い、職員の高齢化が進んでいる

引き継ぐ相手の探し方

 

事務所を引き継いでくれる税理士は、どのように探せばいいですか?

 
 

知り合いの税理士や、税理士会のつながりで探す方法のほか、事務所の承継を支援する会社や仲介会社に相談する方法があります。

 
 

身近な人だけでなく、専門の会社に頼る方法もあるんですね!

 
探し方主な特徴
知り合いの税理士人柄や仕事の進め方が分かっている。ただし、候補が限られる
事務所の職員事務所の事情をよく知っている。税理士の資格を持っている必要がある
承継の支援会社・仲介会社広い範囲から候補を探せる。手数料がかかる

顧問先と職員への配慮

顧問先への伝え方

顧問先にとって、担当の税理士が変わることは大きな出来事です。承継の相手が決まったら、所長が新しい税理士と一緒に顧問先を訪問し、事情を説明して紹介するのが一般的です。一定期間、所長と新しい税理士が一緒に担当する期間を設けると、顧問先に安心してもらいやすくなります。

職員への説明

職員は、顧問先との日々のやり取りを支える大切な存在です。承継後の雇用や待遇について新しい税理士と話し合い、職員が安心して働き続けられるよう説明しましょう。職員が残ってくれるかどうかは、顧問先が残ってくれるかどうかにも大きく影響します。

引き継ぎの時期

確定申告や決算が集中する時期は、事務所の仕事が最も忙しくなります。引き継ぎの時期は、忙しい時期を避けて設定すると、顧問先や職員への影響を抑えることができます。

承継を成功させるためのポイント

 

税理士事務所の承継を成功させるには、何が大切ですか?

 
 

業務の進め方を記録に残しておくこと、考え方の近い相手を選ぶこと、時間に余裕を持って準備することが大切です。

 
 

顧問先のためにも、丁寧に準備したいですね!

 

業務の進め方を記録に残す

顧問先ごとの記帳の方法や、申告の時期、注意している点などが、所長の頭の中だけにあると、引き継ぎがうまくいきません。顧問先ごとの業務の内容や、毎年の流れを記録に残しておくことで、新しい税理士にスムーズに引き継ぐことができます。

考え方の近い相手を選ぶ

顧問先への接し方や、仕事の進め方、報酬の考え方などが大きく違う相手に引き継ぐと、顧問先が離れてしまうおそれがあります。面談を重ねて、考え方の近い相手を選ぶことが大切です。

時間に余裕を持つ

引き継ぐ相手を探し、顧問先への紹介を終えるまでには、1年以上かかることもあります。所長が元気なうちに準備を始めることで、時間をかけて、顧問先が安心できる引き継ぎを進めることができます。

税理士事務所の承継の流れ

  1. 承継の支援会社や仲介会社に相談し、方法や価格の目安を確認する
  2. 顧問先の数や報酬、職員の体制などを、顧問先が特定されない形で整理する
  3. 引き継ぐ税理士を探し、面談で考え方や仕事の進め方を確認する
  4. 秘密保持契約を結び、条件を交渉する
  5. 最終的な契約を結ぶ
  6. 顧問先への説明と紹介、職員の雇用の手続きを行う
  7. 一定の引き継ぎの期間を経て、承継を完了する

税理士事務所の承継でよくある質問

承継後も、しばらく仕事を続けることはできますか?

はい。顧問先の引き継ぎを円滑に進めるために、所長が一定期間、顧問や非常勤の形で事務所に残ることはよくあります。期間や役割、報酬は、契約の段階で決めておきましょう。

顧問先が少ない事務所でも承継できますか?

はい。顧問先が少なくても、地域で顧問先を増やしたい税理士や、独立を考えている税理士にとっては、魅力的な引き継ぎ先になることがあります。顧問先との関係が良好で、業務の記録がきちんと残っていることが大切です。

税理士事務所の承継は、顧問先への配慮がカギ

税理士事務所の承継は、個人事務所か税理士法人かによって、引き継ぎの方法が変わります。どちらの場合も、顧問先が安心して新しい税理士に任せられるよう、守秘義務に配慮しながら丁寧に進めることが大切です。

職員の雇用や引き継ぎの時期も含めて、早めに準備を進めることが、承継を成功させるポイントです。

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[注1] 国税庁:税理士法