旅館・ホテルのM&Aとは?営業許可の引き継ぎ方や、買手が評価するポイントを解説
旅館やホテルは、地域の観光や雇用を支える大切な存在です。一方で、経営者の高齢化や後継者不足、建物の老朽化、人手不足など、宿泊業を取り巻く課題は少なくありません。
「長年守ってきた宿を、自分の代で閉じたくない」と考えながらも、後を継ぐ人がいないために廃業を選ぶ宿もあります。
こうした中で、宿と従業員、地域とのつながりを守りながら次の経営者に引き継ぐ方法として、旅館・ホテルのM&Aが注目されています。
ただし、旅館やホテルのM&Aでは、旅館業の営業許可の扱いや、建物・設備の状態、季節による売上の変動など、ほかの業種にはない確認ポイントがあります。
ここでは、旅館・ホテルでM&Aが増えている背景と、営業許可の引き継ぎ方、買手が評価するポイント、売却で注意したいことについて解説します。
旅館・ホテルでM&Aが増えている背景

旅館やホテルでは、なぜM&Aが増えているのですか?
経営者の高齢化と後継者不足に加えて、建物の改修にかかる費用や人手不足が大きな理由です。一方で、観光客の回復を受けて、宿を引き継いで再生したいと考える買手も増えています。
売手と買手の両方に、M&Aを考える理由があるんですね!
旅館・ホテルでM&Aが増えている主な背景には、次のようなものがあります。
- 後継者不足:家族で営んできた宿で、子どもが継がないケースが増えている
- 建物の老朽化:建物や設備の改修に多額の費用がかかり、自力での投資が難しい
- 人手不足:調理や接客、清掃などの人材を確保するのが難しい
- 観光需要の回復:国内外からの旅行者が増え、宿泊施設への投資意欲が高まっている
- 再生の手法の広がり:経営のノウハウを持つ会社が、宿を引き継いで再生する例が増えている
買手にとっては、一から宿を建てるよりも、すでに許可を持ち、立地や評判のある宿を引き継ぐほうが、早く事業を始められるという利点があります。
旅館業の営業許可とM&Aの関係

M&Aをすると、旅館業の営業許可はどうなるのですか?
株式譲渡の場合は、許可を受けている会社そのものが変わらないため、許可は原則としてそのまま続きます。事業譲渡の場合も、法律の改正により、事前に承認を受ければ営業者の地位を引き継げるようになりました。
事業譲渡でも、許可を引き継げる仕組みがあるんですね!
旅館やホテルを営業するには、旅館業法にもとづいて、都道府県知事など(保健所を設置する市などでは市長など)から営業許可を受ける必要があります。
| M&Aの方法 | 営業許可の扱い |
|---|---|
| 株式譲渡 | 会社が変わらないため、原則としてそのまま続く(役員の変更などの届出は必要な場合がある) |
| 事業譲渡 | 事前に都道府県知事などの承認を受ければ、営業者の地位を引き継げる |
| 合併・会社分割 | 承認を受けることで、営業者の地位を引き継げる |
事業譲渡での承継
以前は、事業譲渡で宿を引き継ぐ場合、引き継ぐ側が新たに営業許可を取り直す必要がありました。2023年に施行された旅館業法の改正により、事業譲渡の場合も、事前に承認を受けることで、営業者の地位を引き継げるようになりました。[注1]
承認を受けるには、譲渡の前に申請する必要があります。手続きの詳しい内容は自治体によって異なるため、宿がある地域の保健所などに、早めに相談しておきましょう。
ほかの許可や届出にも注意
旅館やホテルでは、営業許可のほかにも、次のような許可や届出が関わることがあります。
- 料理を提供するための飲食店営業の許可
- 温泉を利用するための許可
- 消防に関する届出や設備の基準
- お酒を販売する場合の免許
M&Aの方法によって、それぞれ手続きが必要かどうかが変わるため、一つずつ確認しておくことが大切です。
建物と設備の状態
旅館やホテルならではの、確認されるポイントはありますか?
建物や設備の状態は、特に詳しく確認されます。改修にどのくらいの費用がかかるかによって、価格が大きく変わることがあるためです。
建物の状態が、宿の価値に直結するんですね!
旅館やホテルの建物は、長年使い続けているうちに、さまざまな部分が傷んできます。買手は、売却後に必要になる改修の費用も含めて、宿の価値を判断します。
主に確認されるのは、次のような点です。
- 建物の築年数と、耐震の状態
- 屋根や外壁、配管、空調、ボイラーなどの設備の状態
- 消防の設備が基準を満たしているか
- 客室や浴場、宴会場などの改修の履歴
- 土地や建物が会社の所有か、経営者個人の所有か、賃貸か
経営者個人が土地や建物を持っている場合
家族で営んできた旅館では、土地や建物を経営者個人が持っていることがよくあります。この場合は、土地や建物を会社に売るのか、買手に直接売るのか、引き続き貸すのかを決めておく必要があります。
買手が評価するポイント
旅館やホテルのM&Aでは、買手はどこを評価するのですか?
立地や客室数、稼働率と客室単価、口コミの評価、温泉などの特色、従業員の体制、建物の状態などが主なポイントです。
宿の魅力と、数字の両方が見られるんですね!
| 評価のポイント | 内容 |
|---|---|
| 立地 | 観光地や駅からの距離、景観、周辺の観光資源 |
| 客室と稼働率 | 客室数、稼働率、客室単価、季節ごとの変動 |
| 評判 | 予約サイトの口コミ、リピーターの割合 |
| 特色 | 温泉、料理、歴史のある建物などの強み |
| 従業員 | 人数、料理人や接客の中心となる人材、定着率 |
| 建物・設備 | 築年数、改修の履歴、今後必要な投資 |
| 集客の方法 | 予約サイト、旅行会社、自社サイトの割合 |
| 財務 | 利益の安定性、借入金 |
季節による変動を説明できるようにする
旅館やホテルの売上は、季節や曜日によって大きく変わることがあります。月ごとの稼働率や売上の推移を整理し、どの時期にどのようなお客様が来ているのかを説明できるようにしておきましょう。
旅館・ホテルの主な買手
| 買手の種類 | 主な目的 |
|---|---|
| ホテル・旅館のグループ | 施設の数を増やし、予約や仕入れの仕組みを共有したい |
| 宿の再生を手がける会社 | 経営の改善や改修によって、宿の価値を高めたい |
| 地域の会社 | 地域の観光を支える宿を守りたい |
| 異業種の会社 | 観光や宿泊の分野に新しく進出したい |
| 投資ファンド | 宿の価値を高めたうえで、将来に売却したい |
買手によって、売却後の宿の方針は大きく変わります。宿の名前や雰囲気、従業員をどのように扱ってくれるのかを、事前によく確認しましょう。
従業員とお客様への配慮
従業員やお客様には、どのように伝えればいいですか?
話が早い段階で広まると、従業員が不安を感じたり、取引先や地域に誤解が広がったりするおそれがあります。伝える時期と内容を買手と相談し、宿が続いていくことを丁寧に伝えることが大切です。
地域とのつながりが深い分、伝え方には気をつけたいですね!
従業員への説明
旅館やホテルでは、料理人や仲居さんなど、宿の魅力を支える従業員の存在が欠かせません。売却後の雇用や待遇について買手と事前に話し合い、従業員が安心して働き続けられるよう説明しましょう。
予約済みのお客様
売却の時点ですでに予約が入っている場合は、その予約をどのように引き継ぐのかを決めておく必要があります。お客様にご迷惑をかけないよう、予約やキャンセルの扱い、前受金の精算などを契約で定めておきましょう。
売却を成功させるためのポイント
繁忙期を避けて準備する
旅館やホテルの経営者は、繁忙期には宿の運営で手がいっぱいになります。資料の準備や買手との面談は、比較的落ち着いている時期に進められるよう、スケジュールを考えておきましょう。
宿の強みを言葉にしておく
料理や温泉、景色、おもてなしなど、宿の強みを具体的に説明できるようにしておくと、買手に魅力が伝わりやすくなります。リピーターの声や口コミの評価も、宿の価値を示す大切な材料です。
売却前に準備しておきたい書類
| 書類の種類 | 主な内容 |
|---|---|
| 財務の書類 | 直近3期分の決算書、月ごとの売上、借入金の一覧 |
| 許可の書類 | 旅館業の営業許可証、飲食店営業の許可証、温泉の利用許可など |
| 建物の書類 | 登記簿、図面、改修の履歴、消防の点検の記録 |
| 営業の資料 | 月ごとの稼働率と客室単価、予約経路の割合、口コミの評価 |
| 人の書類 | 従業員の一覧、勤務表、雇用契約書、就業規則 |
| 契約の書類 | 予約サイトとの契約、仕入れ先との契約、リース契約 |
旅館・ホテルのM&Aでよくある質問
旅館やホテルのM&Aについて、ほかにも気になることがあります。
「客室の少ない小さな宿でも売れるのか」「赤字でも買手は見つかるのか」といったご質問をよくいただきます。
どちらも、まさに気になっていたことです!
客室の少ない小さな宿でも売れますか?
はい。客室が少なくても、立地や温泉、料理などに特色がある宿は、買手にとって魅力的な引き継ぎ先になることがあります。小規模な宿ならではの雰囲気や、リピーターの多さが評価されることもあります。
赤字の宿でも買手は見つかりますか?
赤字であっても、立地や建物、温泉などに価値があれば、宿を再生したい買手が見つかることはあります。ただし、改修に多くの費用がかかる場合は、価格が厳しく評価されやすいため、早めに相談することが大切です。
宿の名前は残してもらえますか?
宿の名前を残すかどうかは、買手との話し合いで決めることになります。長年親しまれてきた名前には価値があるため、そのまま残す買手も多くあります。名前を残してほしい場合は、交渉の早い段階で希望を伝えておきましょう。
旅館・ホテルのM&Aは、許可と建物の確認がカギ
旅館・ホテルのM&Aでは、旅館業の営業許可を引き継げるかどうかと、建物や設備の状態が大きなポイントです。株式譲渡の場合は許可がそのまま続き、事業譲渡の場合も、事前に承認を受けることで営業者の地位を引き継ぐことができます。
従業員やお客様、地域への配慮も含めて、早めに準備を進めることが、売却を成功させるポイントです。
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[注1] 厚生労働省:旅館業法